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「悔しいって言うと負けてしまう」
昌子源、失点ミスに強がった理由。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byNanae Suzuki
posted2017/06/09 07:00
この1年間で驚異的な成長を見せた昌子。シリア戦での1失点をどう消化し、イラク戦と今後への糧にできるか。
失点後も引きずらず、積極的なプレーを心掛けて。
だからこそ失点後も揺らぐことなく、積極的なプレーを心掛けた。
「もし引きずったら2点、3点とやられてしまう。引きずったら負け。周りから何を言われようと、自分自身、ブレずにやれるようになったところが、成長したところだと思う」
確かに試合時間が進むにしたがって、周囲との連係にも落ち着きが生まれていた。
「確実に後半の最後のほうは僕とマヤくん、ユウトくんの関係性が良くなっていたと思う。マヤくんとユウトくんが常に声をかけてくれたし、逆に俺が声をかけた時には、マヤくんが『今のナイス』って言ってくれた。“こうすればいい”っていう感覚はつかめた」
本番となるイラク戦までに、まだ時間はある。シリア戦を受けて選手間でかわす言葉の質も上がるに違いない。とはいえマークを担当していた選手にゴールを決められるという失態は、ディフェンダーにとっては許しがたいものだろう。最も強くそれを感じているのは昌子自身だ。
「次も俺が出る保証はないし、違う選手が出て仮に(テストに)失敗したとしても『よかったわ』とは思わない。それは自分のまいた種でもあるから。またJリーグでしっかりやっていれば、チャンスは訪れるから」
「悔しいって言ってしまうと、負けてしまいそう」
前向きで強気な発言を重ねて、「切り替える」と繰り返す昌子だが、それと同時に強い悔しさが伝わってくる。しかし、彼は「悔しい」とは一度も言わなかった。そのことが気にかかり、取材の輪が解けたあと「悔しいと口にしなかったのだけれど……」と訊いた。昌子が即答する。
「悔しいって言ってしまうと、負けてしまいそうだから」
意識して使わなかったわけではないというが、その思いに引きずられる危険性を彼は知っているのだ。だから自然とその言葉を発することがなかったのだろう。たとえ強がりに見えたとしても、引きずらないための姿勢がディフェンダーの矜持であるし、昌子の持ち味のひとつでもある。