ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
村田諒太の相手は「速いが脆い」。
追って、殴って、倒して世界王者に。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2017/05/17 17:00
たとえばフライ級では10人以上の日本人王者が過去にいるが、ミドル級では竹原慎二1人しかいない。世界的な層の厚さは想像を絶する。
村田が無骨に前に出て、エンサムがさばく構図。
では、村田はいかにして難敵を相手に勝機を見出していくのか。両者のスタイルを比較し、試合をシミュレートしてみよう。
村田はアマチュア時代からそのパワーを生かし、ガードを固めて前に出る無骨ともいえるスタイルを身上としてきた。固いガードとプレッシャーが、村田の何よりの武器だ。エンダムは「私は何でもできるコンプリートボクサー」と自らを表現したが、分類するならフットワークとスピードに長けた技巧派と言えるだろう。試合は足を使って動くエンダムを、村田が追いかけるという展開が予想される。
エンダムは足を使って左右に動きながら、機を見てロングレンジからの右、村田が接近しようとすれば、ガードの隙間を射抜く右アッパーを打ち込もうとするはずだ。下がりながらでも手数を出してポイントを稼ぐ。村田はカウンターに注意を払いながら、動く相手を追いかけ、距離を詰めなければならない。
この作業は決して簡単ではないだろう。帝拳ジムの本田明彦会長は「3回まではまずつかまえられないと思う」と予想した。大事なのはそれでもあきらめずにプレッシャーをかけ続けることだ。ここで迷って前に出るのをやめたらエンダムの思うつぼ。リズムに乗ったフランス人は着実にポイントを積み重ねていくだろう。
エンダムがいくら速いとはいえ、アマほどではない。
逆に圧力をかけ続ければ、必ずチャンスは生まれるはずだ。エンダムは「村田は私のようなボクサーと対戦したことがない」と不敵な笑みを浮かべたが、エンダムも村田のようにフィジカルが強く、勇敢にグイグイと圧力をかけ続けるタイプを多く経験しているわけではない。エンダムがアマ、プロを通じてアジア人との対戦が一度もない事実も指摘しておきたい。
また、プロとアマは、プロが3分12ラウンド、アマが3分3ラウンドという点で大きく違う。いわばアマは短距離走で、各選手はプロよりもスピードを出せると言えるだろう。そのアマで村田は金メダルを獲得したのだ。
エンダムが速いといっても、そのスピードに村田が驚き、最後まで右往左往して終わる、というパターンも正直なところ想像しにくいのである。