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師匠から受け継ぐ“粋”をまとう――。
横綱・稀勢の里、紫の着物を着る時。 

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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photograph byKyodo News

posted2017/03/10 17:00

師匠から受け継ぐ“粋”をまとう――。横綱・稀勢の里、紫の着物を着る時。<Number Web> photograph by Kyodo News

春場所に備えて、土俵入りで使用する三つ揃いの化粧廻しを贈呈された稀勢の里。

「上の者は若い力士たちに見せなきゃいけない」

「思い切って明るい色の着物を着てみようと思っても、どうしても茶系や紺色系に走ってしまうんです。お洒落は我慢じゃないけれど、着たくないものも着なければいけないことってありますよね」

 すべてが番付順の角界では、三段目になると下駄からエナメル製の雪駄を履くことが許される。さらに十両以上の関取となると畳敷の雪駄を履ける。

「これは滑りやすいんで、あまり履きたくないんです。でも、あえて畳の雪駄を履いた姿を、上の者は若い力士たちに見せなきゃいけないと思っています。自分も、三段目で初めて雪駄を履いた時、幕下で初めて博多帯を締め、外套を着られた時――本当に嬉しかったものです。今でも持っていますよ。

 暑い中でもわざわざ外套を着ている幕下の力士がいて『お、我慢してるな。でも、着られることが嬉しいんだろうな』と思えます。それでいいんですよ。若い衆が、『いつか僕も』と目標にするために」

先代師匠から“粋”を学び、大相撲文化を受け継ぐ。

 土俵の上だけでなく、力士としての在り方に厳しかった先代師匠の下に入門し、15歳からすべてを教え込まれてきたのが稀勢の里でもある。同じ「叩き上げ力士」である、兄弟子の元関脇若の里(現西岩親方)の付け人時代には、幕下に昇進した際、シンプルな白黒の博多帯をプレゼントされたという。

「派手な色の帯は紋付き袴に使えないから、と考えてくださったんでしょうね。冠婚葬祭にも使えるし、今でも大事に使っています。当時は3周巻けた帯が、今は2周ですけどね(笑)」

 さらに大相撲の世界では、親方や幕内力士たちがそれぞれに自分の四股名入りのゆかた地を作り、5月の夏場所に中元代わりに配る慣例がある。

「人に着てもらうのに意味があり、自分の四股名の入ったゆかたを自分で着るのは粋じゃない」と、稀勢の里は先代師匠から教えられるまま、守り続けてきた。

「人から戴いたゆかた地を下着にしたり、すぐに泥着(※稽古時に汚れた体の上に羽織るもの)にしてしまうのも、気遣いがない。そんな風習も最近は薄れてきて、先輩たちが築いてきた伝統が、どこか崩れかけてきているところもあるような気がしています。

 せめて自分だけでも周りの若い衆に伝えていきたい。口で説明せずとも自分の体で表現して、大相撲の文化を受け継いでいけたらいいと思っているんです」

【次ページ】 いつか、紫の着物が誰よりも似合う風格と品格を……。

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