相撲春秋BACK NUMBER
師匠から受け継ぐ“粋”をまとう――。
横綱・稀勢の里、紫の着物を着る時。
posted2017/03/10 17:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kyodo News
新横綱・稀勢の里のお披露目場所となる大相撲春場所が、浪速の地で始まる。
心も新たに場所入りする稀勢の里が、その身にまとう着物は、彼の地元でもある茨城の伝統工芸「結城紬」のものになりそうだ。
これは、今は亡き先代師匠、元横綱隆の里の「形見」の品でもある。隆の里が現役時代に後援者から贈られた、結城紬の羽織と着物。時価800万円とも言われた最高級の紬だったという。この時に余った反物が関係者によって30年以上も大切に保管されており、このたび晴れて、新横綱となった稀勢の里のために仕立てられるのだ。
派手な着物が増えている中、稀勢の里だけは違った。
力士のユニフォームでもある着物やゆかたについて「信念」と「こだわり」を持つのが、稀勢の里だ。
たとえば、大関時代の2014年夏に新調した、鼠色に白い龍の絵をあしらった「染め抜き」。裾の部分に大きく四股名を染めるのが一般的なのだが、稀勢の里はいう。
「あえて四股名は入れず、家紋を大きく入れました。龍の絵も『猛々しくカッコよすぎないような龍で、やさしめに描いて下さい』と業者さんに頼んだんです。白い線だけで描いてもらったんですが、何度も直してもらって、ちょっとうるさく言い過ぎたかな(笑)」
季節ごとの着物の着分け方や袴との色合わせ、着付け方法など、“粋”に着こなせない外国人関取の姿もしばしば見受ける。出世の早い大学相撲出身力士たちのなかには、着物や袴の畳み方もおぼつかない若者が多いとも聞く。
年々、関取衆の着物の色が、オレンジやピンク、黄色などカラフルで大胆になっていくなか、稀勢の里だけは違った。