ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
どうして鈴木みのるは大物なのか。
異色の経歴と「バルタン星人理論」。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byTadashi Shirasawa
posted2017/01/23 11:30
藤原組長の両脇で鈴木みのる(右)と船木誠勝が構える。その異色のキャリアが、鈴木のプロレスラーとしての骨格を作っている。
「バルタン星人の論理」で、永遠のヒールに。
こうしてみると鈴木は、数年周期で主戦場を変えながら、それぞれの場所でトップとして活躍していることがわかる。そして、どこに行っても一貫していることは、鈴木がヒールであり続けているということだ。
鈴木自身はこれを「バルタン星人の論理」と呼んでいる。
「他のレスラーはみんな、その団体の“主人公”になりたがっている。ヒーロー番組で言えば、“ウルトラマン”になりたがってるんだ。でも、ウルトラマンになれるのはひとりだけだし、ウルトラセブンになれるのもひとりだけ。その時代時代の主人公になれるのは、ひとりだけなんだよ。
そしてフリーである俺は団体のエース、つまり“ウルトラマン”にはなれない立場にいる。だったら敵役のバルタン星人になろうと思ったんだ。バルタン星人は初代の『ウルトラマン』に出てきた後、いろんなウルトラマンの敵役として出てきて、平成の新しいウルトラマンシリーズにも出てくる。要は時代も団体(番組)も超えて、いろんなヒーローの敵であり続けている。だから俺も、数年周期で各団体の“ウルトラマン”を倒しに行ってるんだ」
古き良きアメリカンプロレスの「ヒール」を今演じる。
この鈴木の行動は、かつての古き良きアメリカンプロレス黄金時代のトップヒールレスラーの生き方にも通じる。
現在のアメリカマットはWWEの1強時代が長く続いているが、1980年代半ばまでは、全米各地にテリトリーがあり、それぞれが独立した団体として栄えていた。ヒールレスラーはご当地のヒーローと抗争を繰り広げたあと次のテリトリーへと渡り、また新たな抗争をスタートさせる。そうすることでマンネリを回避し、ご当地のヒーローに敗れた後も軍門には降らず、戦場を変えることでトップヒールとしての“番付”を維持し続けていた。
鈴木はいまのプロレス界における、最後の“大物フリーヒールレスラー”なのだ。