ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
どうして鈴木みのるは大物なのか。
異色の経歴と「バルタン星人理論」。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byTadashi Shirasawa
posted2017/01/23 11:30
藤原組長の両脇で鈴木みのる(右)と船木誠勝が構える。その異色のキャリアが、鈴木のプロレスラーとしての骨格を作っている。
大技より、ヘッドロックひとつで差を見せつける。
また、鈴木はプロレスのスタイル、そして持っている技術も、現在の他のトップレスラーとは違う、唯一無二の存在であることが挙げられる。
鈴木は'80年代の末にアントニオ猪木の新日本プロレスで新人時代を送り、その後はUWF、藤原組で格闘プロレスに邁進。藤原組では、伝説のシュートレスラーであるカール・ゴッチに師事し、'93年には船木誠勝らと総合格闘技団体パンクラスを旗揚げした。2003年にプロレスに復帰するまでは、ほぼ格闘技の技術しか持たないプロレスラーだったのだ。
「プロレスに戻った頃、俺は前座のプロレスと格闘技しか知らなかった。だから当初は凄く戸惑ったし、なんとか自分も現在のプロレスに溶け込まなきゃいけないと思って、他のレスラーと同じように大技を使おうとしていた。でも、途中でそれが間違いだと気付いた。基本的な技と格闘技の技術だけで闘うことこそが、プロとして必要な俺の個性であり、最大の武器なんだってね。そこから、よけいな大技はほとんど使わなくなった。その代わり、日本中のどのレスラーよりも、ヘッドロックひとつで差を見せられる自信がある」
感客の心を動かす、たった50cmの落差。
そして、鈴木は基本的な技を出すタイミングを磨くことで、それを大技以上の効果あるものにする術を身につけていく。
「たとえば、危険な大技や派手な空中殺法を出せば、お客さんは『ワーッ!』と沸くわけだけど、それは自分の想像以上のものを見たときの、驚きの声なんだ。だけど、そんなことをしなくても、誰も予想してないところで相手を躓かせるだけで、観客が『ワッ!』と驚くことに気付いた。だから、トップロープ最上段からの投げ技が当たり前のなかで、俺の必殺技であるゴッチ式パイルドライバーは、膝の高さから落とすだけだから、落差が50センチもない。でも、たったこれだけの高さがあれば、観客の心を動かすことはできるし、相手を倒すこともできるんだ」
そしてそれは、1.4東京ドームで46分に及ぶ激闘を展開し、現代プロレスの最高到達点と称えられたオカダ・カズチカvs.ケニー・オメガへのアンチテーゼでもある。
「『鈴木が、オカダvs.ケニーを超えられるのか?』なんてことを言われることもある。でも、そんなのはちゃんちゃらおかしい話でね、超えるつもりもないし、超える必要もない。ケニー・オメガが大技を何十発やっても勝てなかったオカダを、俺はたった一発のパイルドライバーで仕留めてみせるから」
鈴木みのるは、異なる技術と価値観を持ち込むことで、いま48歳にして日本プロレス界の頂点のベルトを奪おうとしているのだ。