詳説日本野球研究BACK NUMBER
菊池雄星のメジャー挑戦はまだ早い。
大谷翔平と差がある「内角の意識」。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2017/01/17 11:30
菊池雄星の才能のスケール感は凄まじいものがあるが、それが結果につながっていないのも事実。ここが正念場なのだ。
死球は少ない方がいいとは限らない?
菊池に話を戻すと、死球の数が少なく、それでいて昨年は与四球率が4.22と高かった。四球が50個以上で死球が5個未満というのはパ・リーグでは菊池の他に2人しかいない。どうせボール球にするなら、打者の近くで外してほしいというのが偽らざる思いである。過去6年の投球内容は次の通りだ。
<シーズン、投球回、勝敗、防御率、四球(死球)>
2011年、54.1回、4勝1敗、4.14、8(3)
2012年、81.1回、4勝3敗、3.10、25(1)
2013年、108回、9勝4敗、1.92、44(3)
2014年、139.2回、5勝11敗、3.54、78(5)
2015年、133回、9勝10敗、2.84、55(2)
2016年、143回、12勝7敗、2.58、67(2)
大谷と投げ合った最終戦のときも思ったが、菊池はストライクとボールがはっきりしている。さらに死球の少なさでわかるように、内角の際どいコースも少ない。
腕を振った直後にボールがキャッチャーミットに収まっているような圧倒的なストレートがあるにもかかわらず勝ち星が伸びないのは、打者がストレートに脅威を感じていないからである。
緩急を徹底してストレートを速く見せ、内角球の精度を高めて打者を心理的に圧倒する、という技術を会得してからメジャーに挑戦したほうが結果はいいと思う。
大谷の内角攻めは、メジャーを視野に入れている?
大谷の与死球数も紹介しておこう。新人年の'13年はリーグ5位の8個を記録、これは与四球率が4.82と高いので単純に制球難と言っていいだろう。それが昨年は与四球率2.89に下がっても、死球はリーグ4位の8個を記録している。明らかに内角を厳しく攻めている様子がうかがえる。打者の心理的な恐怖感は想像に余りある。
'13年以降の過去4年で死球数を集計すると、牧田和久(西武)42、西勇輝(オリックス)35、スタンリッジ(ロッテ)、中田賢一(ソフトバンク)、涌井秀章(ロッテ)各30の順で多い(セ・リーグは藤浪晋太郎の32が最多)。技巧派と外国人に多いが、技巧派は内角を攻めることによってストライクゾーンを広く使おうという意図があり、外国人ピッチャーはバッターを厳しく攻める価値観が備わっているように見える。
死球のメジャー記録が277個なのに対し(ガス・ウェイイング)、日本記録は東尾修(元西武)の165。技巧派でない大谷の内角攻めには、メジャーでやっていくための気概のようなものを感じてならないが、菊池にそういう覚悟はあるだろうか。
いろいろ回り道をしたが、菊池は多くの日本人メジャーリーガーと同様に、90勝以上してからメジャーに挑戦したほうがいいと思う。