松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER
松山英樹が言う「たまたま」の意味。
土台+勝負という方程式が完成間近。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byAFLO
posted2016/12/30 17:00
松山英樹のコメントは、時にぶっきらぼうだ。しかしその後ろには、豊かな思考と試行錯誤が隠れているのだ。
自分で「そこだけは評価したい」と語ったことは。
「すべてに対して不安がちょっとずつあった。それが悪い方向へ走ったのかな。でも今日は悪くても下を向かないよう、がんばって歩いたつもり。そこだけは評価したい」
必死で胸を張り、上を向いて歩く――。昨季途上の松山には、そんな時期もあった。
いや、松山の苦悩はそれからさらに深くなっていった。メモリアル・トーナメントで予選落ちを喫すると、全米オープンでも全英オープンでも予選落ち。
松山の成績不振の原因は「クラブチェンジだ」という声が巷に溢れた。マスターズ後にハーフキャビティ型の新しいアイアンに変え、世界選手権シリーズのブリヂストン招待では新ドライバーを実戦初使用。いずれも成績は振るわなかった。
使い慣れた従来のドライバーとマッスルバック型のアイアンに戻したのが7月末の全米プロ。そこで4位に食い込んだことで、「やっぱり成績が振るわなかった原因はクラブチェンジだった」という見方が強まった。
だが、松山自身は「たまたま結果がそういう風になったけど、スイングが固まれば、クラブは関係ない」と言い切った。
9月にプレーオフ4試合を終え、昨季の米ツアー全日程を終えたときは、2月のフェニックスオープン優勝も「あれは、たまたまです」と言い切り、「今年、良かったのは全米プロだけです」と、悔しそうに言った。
成績がいい時と、松山が満足する時は違う。
優勝しても「あれは、たまたま」。
クラブを変えて、戻して、それに伴って成績が上下動しても「それは、たまたま」。
逆に、優勝はできず4位であっても、全米プロを昨季の「唯一の満足」に位置付ける。
そんな松山の自己分析を探ってみると、戦うため、そして勝つための彼の理想形というものが自ずと浮かび上がってくる。
昨季、他の試合になくて全米プロだけにあったもの。それは、松山のショットに対する満足感だった。思い切りよくドライバーを振り切り、ほぼ毎ホール、フェアウエイを捉えた。意図した打ち出しと想定通りの距離感で次々にグリーンを捉え、「ピンデッドに狙えた」。しかもそれが「フツーにやれた」。