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J3で目立たなくてもU-19に飛び級。
久保建英はまだ全てを出していない。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/11/27 11:00
直前まで選択肢を複数持ち、それを瞬時に切り替える久保建英のドリブルの背後には、メッシと共通する哲学が見える。
今は、自分の能力のすべてを出し切っていない。
現時点でも、久保ならもっとできる。助走期間を与えられれば、J2でもJ1でもプレーできるだろう。間違いなく言えるのは、J3での彼は無理をしていないということである。
現代サッカーは、マルチな才能を求めている。爆発的なスピードとか、高速ドリブルといったように、ひとつの得意技だけで世界のトップ・オブ・トップに君臨できる時代ではない。いびつなレーダーチャートではダメなのだ。
和製メッシと呼ばれるように、久保はレフティーである。では、本家と同じように左足1本でほとんどすべてのプレーをするのか。
否、そうではない。右足でも力みのないシュートが打てるし、センス豊かなパスも出せる。
ところが、J3での彼は右足をほとんど使っていない。プレーの引き出しを、すべて使いきっていないのだ。いまできることを、出し切っていないのである。自己アピールに執着してすべてを出し切ったところで、それが勝利に結びつかなければチーム内で信頼を得られないことを、彼は知っているからだ。
おそらく15歳の現時点でも、周囲をアッと言わせることはできるに違いない。ただ、「これはすごい!」というプレーを一度しか見せられない選手は、世界のトップ・オブ・トップには辿り着けない。フィジカルの優劣がダイレクトに跳ね返ってくる年上の選手との攻防のなかで、ひとまず彼はチームを優先したプレーを選んでいるのだろう。その結果として、複数の項目でより大きな値を示す自身のレーダーチャートのごく一部分しか、まだ見せていないのだ。
才能を感じさせた「横へのドリブル」。
才能の煌めきを感じさせたシーンはある。たとえば11月19日に行なわれたJユースカップ決勝だ。
2-2で迎えた延長後半、久保はドリブルで相手ゴールへ向かっていく。視線の先には2人のDFがいて、背後からもDFが迫ってきた。縦へのコースを遮られた局面で、横へ、横へとボールを運んでいく。その間に後方から走り込んできた味方へ、短く正確なラストパスを通したのだった。
文字で再現すると、難易度が伝わりにくいプレーである。ただ、ペナルティエリアの周辺やその中で横へ、横へとドリブルをしながら、最終的に得点へつながるパスを通したシーンが、今シーズンのJリーグでどれぐらいあっただろうか。かなり少ないはずである。