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事実上トライアウトは引退の儀式か。
選手たちに諦念が漂っていた理由。
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/11/14 12:20
DeNA・久保裕也から右前安打を放つ前巨人・加藤健。過去最高の観客動員数となった今季の合同トライアウトで、1万2千人の観客が見つめていた。
実力があればトライアウト以前に一本釣りされる?
トライアウトを受験せずに、新たな所属先を決める選手もいる。
今オフではソフトバンクを自由契約となった細川亨が楽天に入団するという。「自由契約になった選手はトライアウトを受けなければ新たなチームに所属できない」なんていうルールはないから、実力のある選手はすぐに一本釣りされる。
あるいは秋季キャンプに参加させて、じっくりと実力を吟味するというケースもある。
千葉ロッテは秋季キャンプ中に3選手の入団テストをおこなうと発表したが、元阪神の柴田講平はトライアウトに参加したものの、元ソフトバンクの猪本健太郎、BCリーグ石川の三家和真のふたりは参加していない。
要するに、トライアウトの結果をふまえての入団テストではなく、あらかじめ決まっていたことをトライアウト後に公表しただけにすぎない。
考えてみれば、ふだんから他チームの戦力分析を念入りにおこなっているNPBのチームは、スコアラーが分析したデータを持っている。わざわざトライアウトで実力を測定する必要性はない。掘り出し物を発掘するというよりは、最終確認の意味合いが強いのだろう。
トライアウトとは引退セレモニーでもある。
帰り支度をする受験者たちを呼び止めてコメントを求めると、ほとんどの選手が口にしたのは「やれることはすべてやりきった」という意味合いのセリフだ。
全打席凡退に終わった選手も、三者三振にきってとった選手も、結果がどうであれ、表情は一様に淡々としている。トライアウトの結果で所属先が決まることはないと、薄々気づいていたのだろう。
トライアウトを受験する選手たちに、あたたかく送り出されてチームを離れた者はひとりもいない。引退試合をセッティングしてもらえるはずもない。そんな彼らにとって、トライアウトはユニフォームを着る最後のチャンスだ。
野球人生に区切りをつけるため、気持ちを整理するために、トライアウトはある。グラウンドに別れを告げ、前に進むために必要な儀式なのだ。