プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
噛みつき魔。鉄人。黒い魔神。鉄の爪。
伝説のプロレス記者・門馬忠雄の告白。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2016/11/06 08:00
新書の体をなしているが、ページを開くと……底なしのプロレス地獄となっている! 『外国人レスラー最強列伝』(文春新書)。
狂暴な一発屋相手に、テーズの厳しい制裁が。
テーズのようなレスリングの基本がしっかりしているとても強い王者であっても、敵の中にはひと花咲かせてやろうと、不意打ちを仕掛けてくる狂暴な一発屋が何人もいたというが……そういうときは、リング上でテーズの厳しい制裁が待っていたそうだ。
門馬さんはそんなテーズとカール・ゴッチを比較しているが、そこは読者の皆さんに本書の行間を読んで楽しんでいただくとしよう。
日本で最初に“鉄の爪”の餌食になった男。
“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリック。
その握力と手の大きさは尋常ではなかった。
当時の「月刊ゴング」の付録にエリックの実物大手形写真があった。もちろん、自分の手を当ててみて、その手の大きさと指の太さに唖然としたものだ。こんな手で、150キロとも200キロとも言われた測定不能の“伝説の握力”でこめかみを捕まえられたら、失神してしまうだろう。
そのアイアンクローの日本での犠牲者第1号が門馬さんだった。来日したエリックのデモンステレーションのターゲットにたまたまなってしまったのだという。どんなに「ぶったまげた」ことだろう。
私はエリックの息子の時代になったころ、テキサスのダラスにフリッツを訪ねた。
息子たちのほかに、アブドーラ・ザ・ブッチャーやブルーザー・ブロディが参戦していた。
エリックはプロモーターとして試合場でにらみを利かしていたが、ただ立っているだけで昔の怖さが十分に伝わってきた。
「馬場の王座転落」は国民的関心事だった。
“黒い魔神”ボボ・ブラジルがジャンプして脳天に打ち込む頭突き「ココバット」は印象的だった。
黒光りした肉体は魔神というニックネームがぴったりだった。絶好調でインターナショナル王座を21回防衛していたジャイアント馬場を、このココバット1発で仕留めたのだった。
翌朝、テレビのスポーツ・ニュースが馬場の王座転落を伝えていたのを、よく覚えている。
それくらい、「馬場の王座転落」は国民的な事件だったのだ。