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山中慎介の左ストレートは今も輝く。
目指すは具志堅超えか、統一戦か。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byTsutomu Takasu

posted2016/09/21 11:40

山中慎介の左ストレートは今も輝く。目指すは具志堅超えか、統一戦か。<Number Web> photograph by Tsutomu Takasu

バンタム級で山中慎介は世界一のビッグネームである。それだけに、周囲を納得させるビッグマッチの相手選びは難しい。

右フックを封印し、必殺の左主体に組み立てを変更。

 一進一退の攻防が続く中、4回はモレノが勝利に半歩前進する。山中の右フックの打ち終わりに右カウンターを合わせ、V10王者をキャンバスに転がした。山中が力任せに右を打ち込んだところにパンチを合わされるのは、10度目の防衛戦でリボリオ・ソリス(ベネズエラ)に喫した2度のダウンの再現を見ているようだった。試合後、山中は苦笑いしながら明かした。

「思い切り打つ分、開きが大きくなってしまって……。わかっていながら我慢できずに打って1回ダウンしました」

 山中は右ガードの甘さという悪癖を再び突かれ、5回に右を食らって大きくバランスを崩した。セコンドからは「右フックは打つな。シンプルにワンツーでいけ」という指示が飛ぶ。伝家の宝刀たる左ストレート主体の組み立ては、山中がこの試合に向けて取り組んだテーマでもあった。

左ストレートについていた“錆”を落として。

 今年3月のソリス戦で、山中は2度のダウンを喫しただけでなく、中盤以降に何度も左をヒットさせながらソリスを仕留めることができなかった。大和心トレーナーが表現するところの「1点に力が集中するような、アイスピックのような左ストレート」に狂いが生じ、本来の力を発揮できなかったのだ。

 だから今回の試合に向け、山中は左ストレートの錆をきれいに落とし、ていねいに磨く作業を繰り返した。わずかにズレていたパンチを打ち出す角度、タイミングを調整し続けた。さらに試合中「左を当てるコツをつかんだ」。右の捨てパンチをうまく使い、左の照準は徐々に合い始めた。

 そして6回、山中の左ストレートは、スコープの中でゆらゆらと揺れていたモレノをピタリと中心に捉えた。山中が引き金を引くと、モレノがもんどりうって倒れる。ここまでくれば、フィニッシュまでは一本道だ。7回早々、左を炸裂させた山中がこの日3度目のダウンを奪うと、モレノが痛烈にキャンバスに沈む。何とか立ち上がったものの、再び左を浴びてダウン。主審はノーカウントで両腕を交錯した。

【次ページ】 「こんな形になるとは」と本人に正直に告げると……。

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山中慎介
アンセルモ・モレノ

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