球体とリズムBACK NUMBER
ロナウドとポルトガル、永遠の日。
勝利に愛された泣き虫のエース。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/07/12 11:30
優勝セレモニーの間も、ロナウドの目はずっと潤んでいた。この泣き虫のエースに優勝を、とチーム全員が願っていたのだ。
ぺぺ「クリスティアーノのために勝つぞ!」
だがチームスポーツでは、個々の戦力値の合計とチーム力はイコールではない。足し算にも引き算にも、掛け算にも割り算にもなり、特に今大会はそのことをあらためて教えてくれた気がする。
「クリスティアーノのために勝つぞ!」(ペペ)と団結したポルトガルは、ナニの1トップに布陣を変えて、レナト・サンチェスを本職の中央に回し、中盤を厚くしてフランスに対抗。守護神ルイ・パトリシオのビッグセーブと、ペペを中心とした守備陣の奮闘もあり、劣勢の時間帯をなんとか切り抜けて、勝負を延長に持ち込んだ。
79分から1トップに入ったエデルは、スピードを武器とするFWにうまく対応していたフランスのCBを強さと高さで悩ませ、少しずつだが確実にゴールに近づいていく。そして109分、ジョアン・モウチーニョの縦パスを受けたこの背番号9は、寄せてくるローラン・コシェルニーを引き剥がし、右足のシュートで左下のコーナーを射抜いた。
マーカーは2分前に警告を受けており、厳しく寄せきれなかったという見方もあるが、あの時間帯のあの場面ではあまり説得力を持たない。それよりも、ギニアビサウ出身で下部リーグから這い上がってきた苦労人の、人生最高の一撃を褒めるべきだと僕は思う。
「(延長の前に)ロナウドから、僕が決勝点を決めることになると言われた」とエデル。「実にスペシャルなゴールだった。でもそれはチームによって創出されたものだ。全員が尽くしてきた努力の結晶だよ」
負傷交代後も、ロナウドの影響力は絶大だった。
ここ10年ほど、ポルトガルはロナウド次第のチームと言われてきた。それほど彼の力は絶大だったし、今大会でも成功のカギはCR7ただひとりが握っていると見る向きが支配的だった。その意味で、決勝は示唆に富む。
ロナウドは負傷交代した後の終盤、フェルナンド・サントス監督とともにコーチングエリアで仲間を鼓舞し続け、文字通りピッチの内外で影響力を発揮し続けた。ただし彼にボールを預けることができなくても、人情味に溢れる指揮官の下で結束してしぶとく戦うチームは、とてつもなく大きなことを達成できた。つまり、カギはひとりではなく、チーム全員で共有されていたのだ。