錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
快進撃の端緒となった相手に不戦敗。
ハレ大会優勝のメイヤーと錦織の因縁。
posted2016/06/27 07:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Hiromasa Mano
今日から心はすっかりウィンブルドンだが、まずは先々週の話から始めたい。
錦織圭が左脇腹のケガで2回戦を棄権したハレ大会は、週末、劇的なクライマックスを迎えた。錦織の棄権のために不戦勝となった地元ドイツのフロリアン・メイヤーがその後も勝ち進んで優勝。世界ランキング192位の32歳が5年ぶりのツアー優勝にベンチで肩を揺すってむせび泣いた姿の向こうには、この約2年あまりの間、ケガのためにトータル4分の3程度もコートを離れていた日々があった。最高時には18位だった世界ランキングを一度は失い、2度目の復帰でようやく200位内に戻して迎えた地元の大会だった。
1回戦を突破したあと、錦織との対戦を前にこう話していた。
「彼は特にこの3年ほどの間、すごく強くなっている。とてもいい選手だ。でも僕に勝てるチャンスがあるとするなら芝だと思う。芝は彼の得意なサーフェスではないから、わずかなチャンスでも生かしたい」
2014年の初めにドーハで当時4位のアンディ・マレーを破ったメイヤーだが、その後の対トップ10成績は6連敗。結局対戦することはなかったが、錦織との一戦には並々ならぬ意気込みがあったのだろう。
トップ選手の苦手意識は下克上のチャンス。
錦織側に見方を変えれば、元トップ20とはいえ今は200位前後にすぎない選手ですら、このように「隙あらば」とギラギラしたものを纏って向かってくるのだから恐ろしい。全盛期のロジャー・フェデラーでさえ、クレーコートにいけば格下の相手も「ひょっとしたらひょっとする」と自身を奮い立たせただろうし、10代の頃からクレーでは無敵のラファエル・ナダルも芝に立てば手の届く存在になった。といっても、粉骨砕身のクレーコート・プリンスは20歳のときにはもうウィンブルドンでも決勝に勝ち進むのだが……。
トッププレーヤーの〈不得手〉は、ツアーのつわもの全ての野望が集中するスポットだ。たとえ本人が努力して苦手意識をゼロにしたとしても、彼らの意識にまで影響を与えるには時間がかかる。だから克服が難しい。
しかし、錦織もそうやってトップを倒してきたはずだ。そんなことを考えながら昔の戦績を眺めていたら、メイヤーとはちょっとした因縁があったことに今さら気付いた。