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イタリアの伝統は「弱者で勝者」。
“ティキタカ”を捨てて挑むEURO。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2016/06/05 08:00
チームのフォトセッションにスーツで登場したブッフォン(右)とシリグ。GKこそが“カテナッチョ”のまさに中心だ。
前監督が導入した“ティキタカ”を捨てて。
代表合宿中、コンテは重鎮選手である4人を呼び出した。
プレッシャーのかかる大一番やタイトル争いの経験が少ない残りのメンバーたちへ、彼ら自身の経験を伝えよ、という依頼をするためだ。
コンテがアズーリに注入しようとしているのは、前年までの低迷で染みついた負け犬根性を払拭し、下馬評を覆しながら気迫でスクデットを勝ち取った'11-'12年シーズンのユベントスにあった反骨の精神なのだ。
アズーリが惨敗を喫した'10年の南アフリカW杯後に就任した前代表監督プランデッリが、スペイン流の“ティキタカ”と4-2-3-1を導入しようと試みたように、守備を重視するイタリアの伝統は、今やイタリア国内にあっても「古臭い」と忌み嫌われることも多い。
だが、美しいサッカーとやらが勝利を約束してくれるとは限らない。
持ちうる戦力で勝つための方法が“カテナッチョ”しかないのなら、コンテは喜び勇んで選手全員に「ゴール前へ鍵をかけろ!」と90分間怒鳴り続けるだろう。
ユーベCB3人衆の1人、キエッリーニは代表合宿中の会見で、自分たちのプレースタイルへの確信を語った。
「俺たちイタリアは、“ウノ・ア・ゼロ(1-0)”で勝つために生まれたチーム。4-3のゲームなんかをやるためじゃない」
守り抜いてのカウンターこそが真骨頂。
今大会、アズーリの戦い方は、“カテナッチョ”へ回帰する。
攻め手の数と方向に応じたマンマークとDF同士の相互のケアこそ、守備の国の神髄。守って、守って、守り抜いた末のカウンターの一撃に勝機を見出すのだ。
ただし、闘将の勝負にかける執念をチーム全体へ浸透させるには、大会本番まで待つ必要がある。
先月29日に行われたテストマッチでは、スコットランドに1-0で勝ちはしたものの、相手のモチベーションが著しく低く、打たれたシュートはたった1本。フィジカルコンディションの調整以上の意味合いは薄かった。