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ル・マン初制覇をターゲットに、
最強マシンTS050 HYBRIDで挑むトヨタ。
text by
赤井邦彦Kunihiko Akai
photograph byTOYOTA
posted2016/06/09 10:50
WECの第2戦スパ・フランコルシャンにて。レースでは2位を大きく引き離してトップを独走し続けたが、トラブルのため惜しくも下位フィニッシュに。
昨季とまったく異なる新型のパワーユニット。
ル・マンをはじめとするWECプロジェクトのパワーユニット開発を担うトヨタ東富士研究所。技術開発の責任者である村田久武モータースポーツユニット開発部部長は、「すべてのコンポーネントを一新しなければ勝てない」との思いから、新型パワーユニットの開発を進めた。
昨年までの3.7リッターV8 NAエンジンを捨て、2.4リッターV6直噴ツインターボエンジンを採用、充電システムはこれまでのスーパーキャパシタからハイパワー型リチウムイオン・バッテリーに変更した。
ターボエンジンの採用は、熱効率の向上が目的だ。燃料搭載量および燃料流量の制限が厳しいレギュレーションのもとでは、同じ量の燃料からいかに多くの出力を引き出せるかが勝負の分かれ目になる。そこでターボエンジンを採用し、摩擦ロスの低減やリーンバーン(希薄混合気による燃焼)などの技術を駆使し、新しいエンジンは熱効率を40%以上まで引き上げることができた。以前のエンジンでは30%程度だったことを考えると、大幅な効率アップだ。
しかし、それだけではまだ不足。
そこで出て来るのがエネルギー回生システム(Energy Recovery System、略してERS)だ。
新型のリチウムイオン・バッテリーの開発に成功。
エネルギーの回収は、ブレーキング時に捨てている運動エネルギーを回収する方法(ERS-K)と、排気ガスの熱エネルギーを回収する方法(ERS-H)があるが、トヨタはERS-Kの開発に注力。そこで回収したエネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに貯めて、多くの出力が必要な時に使う。
以前のスーパーキャパシタでは蓄電・放電のタイミングが限定されていたが、新しく採用したバッテリーでは放電タイミングの自由度が大幅に増える。そこが大きな強みになる。
このシステムが採用できたのは、高性能バッテリーの開発がかなったおかげ。村田は「運動エネルギー回生をやるにはパワーも容量も大きい蓄電装置が必要。我々はハイパワーのリチウムイオン・バッテリーの開発に成功したので、その採用に至った」と、語る。