ル・マン24時間PRESSBACK NUMBER
予想できなかったラスト1周の悲劇。
トヨタがル・マン初制覇を逃した瞬間。
posted2016/07/05 11:20
text by
赤井邦彦Kunihiko Akai
photograph by
TOYOTA
言葉を失うという表現は、物書きとしてはどうかと思うが、そういう事態もあるのだということを突きつけられた今年のル・マン24時間レースだった。
例えは悪いかもしれないが、今の今まで健康だった人が突然不治の病を宣告されたような、脱力感に雁字搦めにされたような、そんな今年のル・マン24時間レースの幕切れだった。
だれも手を出せない、無力感に囚われながら見守るだけの終焉。涙を流す気力さえない瞬間。
どんなスポーツでも終わるまで結果は分からない。予想は出来るが、ことがそのように運ぶとは限らない。そこに醍醐味があると言えるが、当事者はそんなことは言っていられない。彼らは万全の体制で勝ちに行く。勝負は、勝てるときに勝っておかないと後が続かない。
TOYOTA GAZOO Racingの第84回ル・マン24時間レースへの参戦は、おおよそ考えられるベストの体制で臨んだといえる。
昨季から全面的に改良されたマシンで万全の態勢。
今年のFIA WEC(世界耐久選手権)参戦車両であるTS050 HYBRIDは、昨年のTS040 HYBRIDから全面的に見直しを行った新車両で、パワートレーン、蓄電装置、空力デザインをはじめとして車両のほとんどの部分で新しく開発を行った。その結果、燃費率は向上し、回生エネルギー容量は大きくなり、空力性能は向上し、運転はドライバーにかかる負担が減少した。
TOYOTA GAZOO RacingはそのTS050 HYBRIDを持って今年のWECに臨み、開幕2戦(シルバーストン、スパ)、そして8回にわたるテストを通して実力を確認した。開幕2戦のレースでは思わぬトラブルも出たが、それらはル・マンに向けて膿を出す作業であり、その目的は果たせたと言える。そして6月、ル・マンのテストデーで車両の成熟度合いを確認し、本番に臨んだのだ。