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「10勝なんて絶対無理だと思ってた」
開幕抜擢の菊池雄星、やっとの自覚。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/24 10:40
9勝は2度あるが、二桁勝利はまだない。しかし2013年の前半の投球ができれば、最多勝も決して夢ではない器の投手だ。
10勝や15勝なんて自分には無理だろうと思っていた。
もっとも、昨年まで菊池の立ち位置が低かった背景には、彼自身にも問題があった。自身にかけられていた期待に、何より菊池本人に応える気がなかったのだ。
菊池は言う。
「周りの方々は10勝や15勝という期待を僕にかけてくださっていたんですけど、自分には絶対に無理だろうと思っていました。ライオンズの先発陣は(高橋)光成が入ってくるまで自分が一番年下だった。自分はまだまだ若いから先輩についていけばいいという気持ちでいて、自覚が足りなかったと思います」
だからこそ、昨オフの契約更改で「15勝が目標」と口にしたことには意味があった。
菊池の中には、少しずつ上積みすればいいという考えから、さらに新たなステップを踏み出さなければいけないという自覚が芽生えつつあるのだ。
いつでも全力、という癖から脱却するために。
事実、オフのトレーニングや春季キャンプの取り組みからは、自身のピッチングを進化させようという狙いがみえる。
取り組んできたのは、フォームのバランスだった。
もともと菊池は、何事にも全力を出し尽くしてしまう特長があった。一生懸命な姿勢は彼の持ち味の一つでもあるが、いつでも身体すべての力を出そうとスロットルを目一杯に開く柔軟性のなさが、時にピッチングを狂わせた。左腕最速となる157kmを計測するほどストレートは速いのだが、好不調の波にピッチングが左右され、試合の中で修正することができないのである。
その悪癖から脱皮を図るため、今季はフォームのバランスに意識を向けた。特に、フォロースルーの際に、身体が流れてしまうことなく右足一本で立っていられるように心掛ける。そうすることで、スっと力が抜けて安定したボールが行き始めた。
さらに、そうした取り組みは彼のピッチングススタイルにも好影響を与えた。昨季まではストレートとスライダーばかりを投げていたが、今季はカーブとチェンジアップを巧みに使い分けられるようになった。これは体の力が抜けたこととリンクしている。
「今季はこれで勝負しよう」と自信をつかめるほどの変化の兆しがみえる。