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問題は選考方式そのものではない。
五輪女子マラソン選考問題の核心。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT
posted2016/02/14 10:40
大阪国際女子マラソンで福士は日本陸連が設定した2時間22分30秒を上回り、日本歴代7位となる2時間22分17秒の好タイムで優勝した。
選考基準の中身が変わった。
異なるのは選考基準の中身だ。当時も、前回のロンドン五輪代表選考でもなかった、派遣設定記録が設けられた点だ(世界選手権代表選考に際しては2013年から設けられている)。
そのタイムはハイレベルだ。選手からすれば、これが代表への道かと思いたくなる。実際、昨年の世界選手権代表選考で、横浜国際女子マラソン優勝の田中智美が予想外の落選をした際、陸連は、レースの内容への不満を示しつつ、派遣設定記録へ挑む姿勢が弱かったことをあげた。リオデジャネイロ五輪代表選考でも記録を重視する姿勢を示した。選手には派遣設定タイムが強く意識される流れとなっていた。
「水泳に限らず、これが目標の記録と示されれば、そこへ向けて頑張る。達成したら、クリアしたと喜ぶ」と前出の選手は言う。福士は派遣設定記録を突破し、優勝もしている。だから「代表だ!」と喜びたくなるのは当然だ、と続ける。
競泳は、現場への説明に労を惜しまなかった。
競泳は2000年の反省から、選考基準を明確にした。一部例外はあるが、原則、日本選手権の成績で決まる「一発選考」だ。
マラソンは、記録を重視する方向を打ち出した。ただし、複数の選考レースを設け、総合力を問う方針には変わりない。
2000年当時の状況と比べると大きく隔たった両者には、実は一発選考と複数大会を対象とした選考方式以外にも違いがある。競泳で選考方式が大きく変わったあと、現場サイドの一部に不安や不満がなかったわけではない。それでも定着し、今は「世界で勝つためには大切」と受け止められている。方針を浸透させるため、現場への説明に労を惜しんでこなかった。
マラソンは、現場が理解できていないことがままあった。世界選手権代表に田中が選ばれなかったとき、山下佐知子監督は、はっきりと、「事前にそのような観点から選考すると聞いていない」と批判したのは象徴的だ。明文化された選考基準はあるが、その解釈には幅がある。重要だと捉えていた優勝がいつの間にか変更され、しかも後から伝えられれば、恣意的な運用とすら思える。