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11年ぶりのレスリング復帰戦で優勝。
永田克彦が我が子に見せた父の背中。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT
posted2015/12/31 12:30
レスリング全日本選手権グレコ71kg級の表彰台にて。左から、倉野真之介(24)、永田克彦(42)、山本貴裕(20)。
「レスリングは体力を出し切る感じで消耗する」
「でもレスリングって、まさしく体力を出し切る感じで消耗していくんですよね。だからMMAでレスリングくらい力を使い切ったら互いに病院送りになりますよ。MMAはレスリングと違った部分でハードですし、そういった独特の緊迫感があるんです。相手を痛めつける競技だから体力はまだあってもKOされることもあるし、足や腕を折られる心配もあるわけです。そういう怖さ、緊張がMMAにはありましたから、ある意味、格闘技とはこうなんだ、と勉強できたことはすごく良かったと思うんです」
高校時代はレスリングで目立った実績はなかったが、進学先を決める際は「強い選手がたくさんいるから」という理由で名門・日本体育大学のレスリング部への入部を決めた。根っからのチャレンジャーである。今回の全日本選手権挑戦もそんなチャレンジャー精神がきっと騒いだのだろう。
減量で大事なのはマニュアルではなく体の声。
今回の勝因はもう一つある。彼の体調管理の上手さだ。
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永田の普段の体重は約80kgあるという。これを試合にあわせて調整していくのだが、レスリング、そして総合格闘技と経験を積み重ねていくに連れて、減量も苦にならないどころか、年々上手くなっていると話す。
「体の声というか代謝の流れをつかんでいるのでコントロールしやすいんですよ」
さらに彼は減量法について持論を展開する。
「基本は自分の経験です。体が回復をするにはどういう栄養素が必要とか最低限の勉強はもちろんします。でも体重コントロールに関しては、ある程度のマニュアルはあっても、それだけに頼ってしまっては絶対に上手くいかないんです。人間の体の反応は各々で違っていて、マニュアルではこういうのを食べなきゃいけないとかあると思うんですけど、実際は今、自分の体はこういうものを欲しがっているとかあると思うんです。そうした体の声に素直に応えるのが経験と共にできるようになるんですよね。だから体重コントロールはマニュアルに沿ってやると大抵は失敗します。代謝は年を取ると共に落ちていく。それでも体の声に応えられるように経験と共になっていく。それさえつかめれば問題ないです」
体調管理には結婚9年目を迎える妻の優華さんも協力する。
優華さんは都内でヨガのインストラクターをしていた経験もある。そうした家族たちのサポートが支えになり、彼は今、再びマットに上がっている。そこが11年前に臨んだ全日本選手権との大きな違いでもある。