ラグビーPRESSBACK NUMBER
オールブラックス、心理戦略の妙。
史上初W杯2連覇を達成できた理由。
posted2015/11/02 16:30
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph by
AFLO
ニュージーランド(NZ)を訪れた人は、ほとんどの人がこの国を好きになるはずだ。国民性は謙虚で、飾らず、気さく。列を守る。飛行機や船が遅れても文句を言わない。頼んだこと、尋ねた事はよく覚えていて、答えに少しでも過不足があると、戻ってきて訂正する……すべて、2011年のワールドカップ(W杯)で記者が経験した出来事だ。
ラグビーというスポーツの根幹をなす「ハンブルネス」(謙虚さ)という精神は、ニュージーランドの国民性そのものであり、だからこそNZ代表オールブラックスは世界最強の名をほしいままにしている。
だが「謙虚」は時として「傲慢」と紙一重だ――というと、矛盾に聞こえるかもしれない。だが「どこまでも謙虚になろう」という心構えは、時として「オレは誰よりも謙虚だ」という、全然謙虚じゃないメンタリティーを作ってしまうパラドックスを引き起こす。
ADVERTISEMENT
2大会前までのオールブラックスがそうだった。世界中のどのチームよりも謙虚に、ひたむきにラグビーに取り組み、努力を重ね、勝利を重ねてきた……そんな自信が、相手を軽んじたメンタリティを内側に作ってしまう。優勝候補の筆頭にあげられながら準決勝でフランスに敗れた1999年大会、同じく準決勝でオーストラリアに敗れた2003年大会、準々決勝でフランスに敗れた2007年大会、すべて敗北の根底には同じパラドックスが存在した。
「ハカ」の後にもう一度円陣を組んだNZ。
その轍は踏まない。
今回、連覇を目指したオールブラックスが、常に発していたメッセージだった。
準々決勝からのファイナルステージ3試合、オールブラックスは試合前恒例の「ハカ」を終えると、わざわざもう一度円陣を組んだ。
ハカは「マオリの伝統に基づく神聖な儀式」として、多くのラグビーファンにリスペクトされる一方で「不公平だよね」と指摘する声もある。フィジー、トンガ、サモアとの「互いにウォークライをする」チーム同士の対戦を除き、自分たちのための儀式の時間を相手に強いるからだ。
「だから、対策を考えました」
そう話したのは日本代表のヘッドコーチを務めたエディー・ジョーンズだ。エディーはオーストラリア代表監督として、毎年、何度もオールブラックスと対戦した。