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吉田類 「野性を求めさまよう、『酒と山』放浪記」
text by
根津貴央Takahisa Nezu
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/08/06 10:30
低体温症になり、ビバークした場所はヒグマの生息地。
「10月末くらいだったかな。尾根筋を歩いていたら急にカラダがスローモーションになってきたんです。なんかおかしいな……と思っていたら、ジャケットの袖の部分が開いていて。そこがラジエーターとなって体温が下がり低体温症にかかり始めていました。これに気がついたんで緑岳のほうに下りていったんです。天候が荒れていたので途中でビバークせざるを得なくなったのですが、そこはヒグマの生息地として有名なところ。でも吹雪いていたので匂いも飛ぶし、まあ見つからないだろうと思ってテントを張りました。そうしたら夜中に急にテントがバタバタと揺れだして……これはヤバイと、無駄な抵抗だとは思いつつもピッケルとナイフを手にして身構えたんです。それで外に出てみたらヒグマはいない。吹雪はすっかりやんでいて、夜空には煌々と輝く月。風だけが強く吹いていました(苦笑)」
そう、北海道の山と言えばヒグマである。実は吉田さん、これまでヒグマには何度か遭遇しているそうだ。でも本人いわく「むしろヒグマに会うために山に登っていたんですよ」とのこと。一時期ヒグマの生態の研究をしていたこともあり、大のヒグマ好きでもあるのだ。
札幌市内からすぐの藻岩山で、原始林を見られる。
現在、吉田さんは多忙を極めるため縦走の機会は減った。その代わり、北海道でよく日帰りで足を運ぶ山がある。
「札幌市内からすぐのところにある藻岩山(標高531m)ですね。市内にオフィスがあるんで、気軽に行くことができるんです。登山というよりは足慣らしで行くような場所なんですが、北海道ならではの本格的な山の様相が一番の魅力です。しかも原始林なのですごく美しい。人工林では見られないようなクマゲラやアカゲラ、ヤマゲラといった鳥類もいれば、エゾリスもいる。ヒグマもいつ出てくるかわかりませんから、単独でいくとけっこうスリルがあるんですよ」
北海道の山には吉田さんを駆り立てる何かがあるようだ。