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紺のスーツで登場、ドイツ語で挨拶。
武藤嘉紀の会見が絶賛された裏側。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2015/07/17 11:00
紺のスーツにさわやかな笑顔で入団会見に臨んだ武藤嘉紀。岡崎慎司を愛したマインツの人々は、同じ日本人である武藤に大きな期待を寄せている。
記者会見は武藤嘉紀を知ってもらうチャンス。
冒頭で紹介したドイツ語の文章は、日本語に訳すとこのようになる。
「こんにちは。私の名前は武藤嘉紀です。『よっち』と呼んでください。マインツという素晴らしいクラブのメンバーになれて非常に嬉しく思います。マインツのために自分の全てを注ぎ、頑張っていきたいと思います。ドイツ語はとても難しいのですが、頑張って勉強します。どうもありがとうございました!」
飯田氏によれば、この日本語の紹介文もドイツ語に直したときに、「長すぎず、短すぎず、自分の言いたいことを伝えられる」ように武藤自身が考えたものだという。そのうえで、飯田氏が自身のネットワークを活かして、きちんとしたドイツ語に翻訳してもらったという。
武藤の努力はそこから始まる。
「彼はそのドイツ語を何度も紙に書いては、読みあげ、必死に覚えていました。会見の前日にドイツ語での挨拶をしようと急に思い立って、『どうしよう……』と慌てる人も少なくないと思うんです。でも、彼は何日も前から準備をしていました。記者会見は武藤嘉紀という人間を知ってもらうための最適の場所であり、そのなかで最大限にアピールする方法があのコメントであり、スーツだったのだと思います」
飯田氏はそのように説明する。
各紙が武藤のドイツ語を「そのまま」掲載していた。
確かに、武藤が長文のドイツ語を暗記した成果は小さくなかった。彼が披露したドイツ語はドイツ人記者たちを驚かせただけではなく、彼らに武藤という選手のメッセージがしっかりと伝わったようだ。翌日の各紙の紙面では、みな武藤が発したドイツ語をそのまま掲載していた。それは武藤が正しいドイツ語を発したからだ。
『ビルト』紙でマインツの担当を務めるペーター・デラーは、自らが書いた武藤の入団会見についての記事について問われると、表情を崩してこう答えた。
「私の記事を読んでくれたのかい? 『ブンデスリーガの52年の歴史のなかで』っていう部分は大げさだったかな? ハッハッハッ」
そこまで話すと、表情をきりっと引き締めてこう続けた。
「ただ、私は30年以上にわたって記者として働いてきたけど、昨日の武藤のような会見をしてみせた選手は初めてだ。それは断言できる」
もっとも、彼はこう付け加えるのも忘れなかったのだが。
「ただ、私は厳しいよ。実際の試合でのプレーはまだ見ていないからね。その評価は、これからだ」