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武藤嘉紀はマインツのスター候補。
メディア、監督、選手が既にトリコ!
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2015/07/14 11:30
今季のマインツにとって最大の課題は、エース岡崎慎司が抜けた穴を埋めること。同じ国から来た武藤嘉紀に、クラブもファンも大きな期待を寄せている。
正しいドイツ語ではなくとも、意思を伝える声を。
そこからは、日本とドイツのメディアがその一挙手一投足を追う毎日だ。
練習ではこんなシーンがあった。5対5のミニゲームのなかでのひとコマだ。ブロジンスキがパスを出すと、ボールのコースにベルが入っていく。ベルの先に、武藤がいた。
「スルー!」
武藤の声が響いた。
ベルはそれに気づいたのだろう。股を開いた。ボールが通過する。武藤はそのボールを押し込むだけだった。ゴールネットが勢いのあるボールに引っ張られた。このプレーに絡んだ武藤以外の2人のレギュラーは、ボールがネットに収まるのを見届けると、素早く相手の攻撃に備えて守備の体勢を整えていった。
この場面、ドイツ語でスルーを意味する「ドイヒ(durch)」と叫ぶのが正解だ。それでも武藤は臆することなく、「スルー!」と叫んだ。それは練習場の柵の外にある見学者用のスペースまでハッキリと聞こえてきた。
大切なのは、正しいドイツ語を使うことではなく、スルーしてもらえば背後にいる自分がシュートを打てるというメッセージを伝えること。武藤は、そんな本質をわかっている。
「物怖じしていても良いプレーは出来ない」
すでに広報などとは英語でコミュニケーションがとれている。さすがにドイツ語で細かい意思伝達は出来ていないのだが、臆することなくピッチで味方に声をかける理由について武藤はこう話している。
「物怖じしていても、良いプレーは出来ないし、それはコミュニケーションについても同じです。どこで(パスを)欲しいとか、ここにボールを出してくれという自分の意志を伝えないとボールは来ないので。言葉が通じない難しさはありますけど、ここに出せ(と声を出している様子)とか、どこに動き出しているとかは、仲間も見てくれていると思うので。あとは、信頼してもらうために、自分は良いパフォーマンスをしていかないといけないと思います」