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菊池雄星、「常に力投」に潜む副作用。
そろそろ見たい、原石の“完成形”。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/04/30 12:20
苦戦が続く菊池雄星だが、スケール感は失われていない。過去の最多勝利は2013年の9勝。今年は初の二桁勝利、そして目指すべきスタイルの確立が望まれる。
2年目の石川歩にあって、6年目の菊池にないもの。
その要素とは、この日対戦したロッテの先発・石川歩が持っているものだ。
石川はプロ入団2年目ながら、ロッテのエースに君臨しているピッチャーだ。26歳でのプロ入りという遅咲きだが、大学・社会人で積み上げた経験が彼の礎となり、チームを勝利に導くピッチングが常にできるのが彼の優れたところだ。
140km前後のストレートに、スライダー、シンカー、カーブを投げ分ける。この日はQVCマリン特有の強風でシンカーが鋭く変化していたため、これを有効活用しつつカーブ・スライダーでカウントを整えた。忘れたころに投げてくるカーブは厄介だったし、打者に踏み込ませないためのインコースのストレートの使い方は、思わず「巧い」と唸るほどだった。ほとんどすべての投球がコーナー、低めにコントロールされ、9回2安打8奪三振の完封ショーは圧巻というほかなかった。
すべてのボールを「力投」するのではなく、強弱を付けていく。涼しげな表情で9回を投げ切った石川の姿は「ピッチングとは何か」を、見せつけていたように思う。
「力投」だけでは、パフォーマンスは続かない。
菊池と石川の大きな違いはこの「力投」したか、しなかったかに尽きる。
菊池の持ち味は先述しているように、天性とも呼べる鋭い腕の振りとリリースの力強さだ。フォームにさえ迷いがなければ、菊池は強い球を投げることができる。それがこの日の12奪三振につながったのだが、彼のすべてにおいて全力投球をする姿勢、いわゆる「力投」を見ながら、このピッチングで1試合持つ、あるいは、1シーズンを投げ切ることができるという想像ができなかったのだ。
事実、6回裏にクルーズに打たれた2本目のホームランは、それまでロッテ打線を苦しめていたストレートだった。序盤ほどの勢いがなくなった菊池のストレートは、コースが甘かったとはいえ、いとも簡単にスタンドまで運ばれてしまった。
ボールに勢いのある試合の序盤や、1年間トータルでいうと、前半戦は乗り切れるだろう。しかし1試合、1年間を通して考えたときのスタイルとしては、限界があるのではないか。思い起こせば2013年シーズン、菊池は前半で9勝を挙げながら夏場に故障で離脱してしまっている。
昨季は1年間を投げ抜いたが、トップパフォーマンスを維持しきれなかった。菊池が破れずにいる“殻”は、ボールの勢いに頼りすぎるスタイルにも原因があるのではないだろうか。