濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
終わってもファンが帰らない熱と余韻。
K-1に感じる、魔裟斗の時と同じ匂い。
posted2015/04/30 10:40
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Takao Masaki
格闘技イベントにおける観客の満足度は、メインイベント終了直後の様子で分かる。不完全燃焼の試合が続いて興行が長引いたり、メインの内容が今ひとつだと、観客は試合終了と同時に一斉に席を立ち、出口へと向かう。中には、判定結果を聞かずに帰る者もいる。「ま、どうせ○○の勝ちだろ」というわけだ。
4月19日、国立代々木競技場第二体育館で開催されたK-1 WORLD GPは、その逆だった。多くのファンが閉会式を見つめ、拍手を送る。リングサイド近くまで行って写真を撮る観客も少なくなかった。余韻をたっぷりと味わいたくなるイベントだったのだ。
現在、日本で行なわれているK-1は、かつて地上波放映されていた“旧K-1”から権利を取得した実行委員会によるものだ。運営はKrushと同じ株式会社グッドルーザー。マッチメイクはKrushで育った選手が中心で、旧K-1にも出ていた選手は数えるほどしかいない。それでも、チケットは完売。つまり期待度も満足度も高かったことになる。
“Krush育ち”の選手たちが見せる、迫力ある倒しあい。
この日、主軸として行なわれたのは-55kgの初代王座を決める闘い。旧K-1も含めて初開催、最軽量の世界トーナメントだ。かつては「軽量級は迫力がない」「KOが少ない」と言われたが、それが単なる偏見であることを、ファンはよく知っていたはずだ。トーナメントにエントリーした“Krush育ち”の選手たちは、他の階級とまったく変わらない倒し合いを、これまで後楽園ホールで展開してきた。
優勝したのはKrush -58kg王者の武尊(たける)。ナチュラル・ボーン・クラッシャーの異名を持つ強打の持ち主は、一世一代の晴れ舞台でその能力を完璧なまでに発揮してみせた。
1回戦、ロシアのアレクサンダー・プリリップをパンチとローキックで2RKO。準決勝では前Krush -55kg王者の瀧谷渉太から1Rで2つのダウンを奪って試合を終わらせた。決勝戦は判定決着だったが、1Rと3Rにパンチでダウンを奪って現Krush -55kg王者の大雅を下している。判定になったのも、大雅が持ち味のヒット&アウェイをかなぐり捨てて驚異的な反撃を見せたからでもある。そんな試合を見て「迫力がなかった」という者はいないだろう。