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内山高志のパンチは「変化」する。
強さ、角度、伸びのバリエーション。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byAFLO

posted2015/01/07 10:30

内山高志のパンチは「変化」する。強さ、角度、伸びのバリエーション。<Number Web> photograph by AFLO

WBAスーパーフェザー級を9度防衛中の内山高志。試合後にはWBCの同級チャンピオンである三浦隆司との対戦に意欲を見せるなど、在位5年となる王者は、今も向上心を持ち続けている。

痛めていた右拳も、この日は万全の状態。

 内山は右拳に古傷を抱えている。今はWBC王者になった三浦隆司の挑戦を受けた時は、早いラウンドで右拳を痛め、左拳だけで戦って、それでも三浦を倒した。

 ここ数戦も、右拳は完調ではなく、パンチの7割方は左で、右は時折出しても幾分力をセーブしたようなパンチが目立った。

 ところがこの日は序盤から右のパンチも積極的に繰り出し、パンチのバランスが抜群によくなっていた。ブランクがあったことで、右拳に十分な治療と鍛練を与えることができたのだろう。左のボディやフックで相手のガードが空いた所に右ストレート。ストレートに近い左ジャブに右ストレートをつづけるワン、ツー。挑戦者は顔面のガードを必死に固めていたが、内山はそのわずかな隙間からドリルでねじ込むようにパンチを突き刺し、ダメージを広げていった。

パンチを「変化」させるということ。

 そうしたパンチのバランスもみごとだったが、それ以上に感心したのは、ひとつひとつのパンチに変化があったことだ。同じ左のフックでも大きく振り回すようなパンチと鋭角的にあてるパンチがある。ジャブにしても間合いを測るような軽いものと、確実にダメージを与える強烈なものを併せ持っている。

 選手のパンチはストレート、ジャブ、フック、アッパーに大別されている。どの選手もいつも同じジャブを打つわけではないし、ストレートが同じ強さと伸びで出てくるわけでもない。だが、同じパンチの中での使い分け、細かいアレンジをつける点で、内山ほど巧みな選手はちょっと記憶にない。

 この試合はテレビで見ていたのだが、内山のパンチのアレンジの巧みさは、彼の背中側から撮った映像のとき、もっともよくわかる。たとえば、顔面への左アッパーなど狭い領域へのパンチだけにそれほど変化のつけようはないはずなのだが、内山はあごの真下に入るのを決めたあと、ほかのパンチをはさまず、つづけて少し外から斜めに入るような顔面へのアッパーを決めてみせた。最初のアッパーをガードすることはできても、角度を変えて近い位置にたたき込まれるパンチを防ぐのは不可能だ。瞬間的に、そうした変化をつけることができる。それもどのパンチでもできる。驚くべき技術だ。

【次ページ】 強打のイメージの陰にある、変化するテクニック。

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