マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
なぜ練習ばかりで見学しないのか。
松山で考えた、日本野球の「盲点」。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAsami Enomoto
posted2015/01/01 11:00
日本の高校野球は、圧倒的に練習時間が長いことで知られる。逆に、プロ野球やMLBの試合を「観る」習慣がほとんどないのも気がかりだ。
日本代表のオーディションであり、指導の場でもある。
選考合宿だから、つまりオーディションである。落とすか、残すか。全日本チームのスタッフの方たち(現職の学生野球監督)は、そのジャッジだけを行なうのかと思えば、課題のはっきりした選手に対して、手取り足取りの指導が始まる。
スタンドからでは指導する声は聞こえないが、教える者と教わる者の身振り手振りを見ていれば、なにを教わっているのか、それは推察できる。
次はバッティング練習。
高速ビームを左右に弾き返しているのは明治大・高山俊(日大三)。さすがドラ1候補、もうプロの打球だ。慶應義塾大・谷田成吾(慶應義塾)の飛距離はこんなものじゃないだろう。いい角度で飛んでいった打球がフェンス前でたれる。どこかで力が抜けている。いったい、どこなのか?
また高山が打っているのかと思ったら、早稲田のユニフォームだ。茂木栄五郎(桐蔭学園)の打球が外野に飛んでいってから、また伸びる。
フリーバッティングと同時に、バックネットの前ではティーバッティング。そこでも、やはり指導は続いている。
なぜ球児たちは、この“宝の山”を見に来ないのか。
午後の紅白戦。
明治大・上原健太(広陵)の角度、駒澤大・今永昇太(北筑)の伸びとスライダーのキレ、帝京大・西村天裕(県和歌山商)の快速球のうなり、中部学院大・齋藤弘志(大阪産大付)のクロスファイアー。いずれも、2015ドラフトの1位指名が期待される快腕、剛腕たちの競演が続く。
そんな中、プレーの随所でダグアウトのスタッフから、ベースコーチに出ているスタッフから、瞬時に痛烈かつ具体的な指導の声が選手たちに飛ぶ。
面白い、実に興味深い。手元のメモが、あっという間に5枚、6枚と文字で埋まっていく。
もっと見たい、もっと聞きたい、もっと勉強したいよね、みんな。
振り返ったスタンド、誰もいない。誰も見に来ていない。選手たちの家族、関係者は何人かはいらっしゃる。
しかし、いちばん見てほしい人たちが来ていない。
高校球児、中学球児、なぜこの学びの“宝の山”のような現場に、きみたちがいないのだ。なぜか?