プロ野球亭日乗BACK NUMBER
采配よりも「個」が光った日本シリーズ。
ソフトバンクと阪神の間にあった“差”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2014/10/31 13:00
ソフトバンクに流れを呼び込んだ柳田悠岐の思い切りのいいバッティング。今季は自身初の全試合出場を果たし、打率.317、本塁打15、打点70と飛躍の年となった。
存在した、走塁よりも大きな“失敗”。
そのときに同じアウトになるなら、ある程度守備妨害を覚悟でラインのギリギリか、少し内側を走って捕手の送球を邪魔しようとすることはある。
これはギリギリのルール違反だが、多くの走者がやってしまう違反でもある。いわば10kmぐらいのスピード違反で、反則切符を切られないケースもなくはない。ただ、違反をしていることに変わりはないので、アウトと言われればアウトの走塁だったということだ。
逆に言えば、この走塁で西岡を批判しても仕方ないということでもある。
あえて言うならあの打席、サファテが制球に苦しむ2-0から、高めのボールに手を出した方が痛かった。犠飛を狙って高めに目つけをしていた結果とはいえ、明らかなボール球に手を出して、相手を楽にしてしまった。結果的に打球が一塁への強いゴロになったことは、仕方がない。むしろこのボール球を振ってしまったことが、西岡のあの打席の一番の“失敗”だった。
采配よりも、選手個々の力が光ったシリーズ。
こうして前代未聞の終焉となった今年の日本シリーズ。振り返ってみると勝ったソフトバンクも敗れた阪神も、ともにベンチワークというよりは、個々の選手の力で局面を切り開いていった。力と力の対決のシリーズといえるかもしれない。
その中で光ったのが、ソフトバンクの個々の選手の強さだった。
例えばシリーズの流れを逆転した第2戦の武田翔太投手の快投と、第5戦でエースの意地を見せつけた攝津正投手の力投。ともに縦に割れるカーブを武器に、大一番で阪神打線に付け入るスキを与えなかった。
打線では、MVPを獲得した内川聖一外野手の勝負強さはもちろんだが、シリーズを決した第4戦の延長10回に中村晃外野手が放ったサヨナラ3ラン。虎の絶対的守護神・呉昇桓投手の内角ストレートに力負けすることなく打ち返した。リーグ最多の176安打は放ったが、シーズンでは4本塁打。決して長打力が売りではない男が決めたこの一打が、ソフトバンク選手の能力値の高さを示している。