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<独占インタビュー再録> 錦織圭 「壁は必ず打ち抜ける」
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byTetsushi Ogawa
posted2014/09/08 17:00
「メンタルの疲れが一番の原因だった」
'12年全豪の8強入りのような大活躍はなかったが、全豪と全仏でベスト16、ウィンブルドンは3回戦と、世界ランクにふさわしい、安定した結果を出せたことも収穫だという。
長期的な視野に立てば、夏場の不振も今後につながる経験、すなわち「蓄え」ととらえることができる。
「メンタルの疲れが一番の原因だったと思うんですけど、(約3カ月に及んだ)ヨーロッパ遠征の疲れだったり、(トップ10入りの)プレッシャーだったり。それで目の前の試合に集中できないっていうのがあったので」
ウィンブルドンのセッピ戦が端的な例だろう。勝てばトップ10が一歩近づく。目の前の相手ではなく、結果に目が向いていた。「(トップ10を)すごい上に見ていたので、逆に、急に近くなって、このチャンスを逃したら、という焦りもあったのかなと。大会でこれだけ先まで勝ち上がればこれだけポイントがもらえる、というのを見過ぎていて、その一戦に集中して戦うということができなかったと思います」
ランキングを意識しないテニス選手は一人もいない。ただ、これまでの錦織は並はずれた集中力で雑音を遮断し、「その一戦」にすべてを出し切ることができた。ところが、このときばかりはポイントを計算し、気持ちだけが先走った。これほど集中を欠いた戦いが続いたのは「人生で初」だという。
「11位にいてトップ10を意識しないのは難しかった」
「トップ10に入ることは大きな夢だったし、今考えれば、そこに執着しすぎていたと思います。やっぱり、11位にいて気にしないっていうのはなかなか難しかったかなと」
シーズンの終わった今なら、この苦闘も無駄ではなかったと思える。
「今までになかった思いをしましたが、1年を通してメンタル的にもフレッシュでいることがどれだけ大変かわかったので、来年はまた試行錯誤しながら変えていけると思いますし、その苦しい時期から(全米の翌週に行なわれた)デ杯では巻き返していけたので、それもいい経験になったと思います」
一度経験したからなんとかなる。試行錯誤の余地があるだけまし――このあたりが錦織一流の発想法と言えるだろう。試合では相手から情報を盗み、ツアー生活のあらゆる局面で何かを学ぶ、その集積が錦織圭という選手を形作っている。トップ10入りの重圧とどう向き合うかという難しい課題にも、答えが出かかっているのかもしれない。また、この点では、新たに迎えたマイケル・チャンコーチの存在が大きな助けとなるに違いない。