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苦労人の進撃と王者の安定。
~サイ・ヤング賞の大穴と本命は~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byGetty Images

posted2014/08/14 10:40

苦労人の進撃と王者の安定。~サイ・ヤング賞の大穴と本命は~<Number Web> photograph by Getty Images

8月9日のヤンキース戦でも快投を見せ、13勝目を挙げたインディアンスのクルーバー。2007年にパドレスに4巡目指名で入団し、2010年にインディアンスにトレードで移籍した。

制球難を克服し、サイ・ヤング賞を視野に捉えるまでに。

 ちょっと凄いでしょう。40回を投げて自責点3、奪三振45、与四球4。防御率0.68も立派だが、奪三振と与四球のレシオが群を抜いている。

 クルーバーの球速は150kmそこそこだ。いまの大リーグでは際立った数字ではない。ただ、変化球の切れが鋭く、組み合わせ方が抜群に巧い。とりわけ眼を惹くのは、カッターとスライダーのコンビネーションだ。カッターは、左打者の膝元で10cm以上落ちる。スライダーは、直球と同じ軌道を描きながら、打者の手元で急速に変化する。

 若いころは制球難に苦しんだこともあったようだが、ツーシームのコントロールが飛躍的に上がったことで投球術を会得したのだろう。まっすぐでカウントを稼いでおいて変化球で仕留めるというパターンはけっして目新しくないが、クルーバーの場合はカーヴやチェンジアップもレパートリーに加わるから打者は手を焼く。

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 ア・リーグ全体を見渡しても、勝利数(13)が1位タイ、奪三振数(187)が2位(1位はデヴィッド・プライスの199)、防御率(2.46)が4位(1位はフェリックス・ヘルナンデスの1.97)。こうなると、サイ・ヤング賞さえ視野に入ってくる。

ダルビッシュ、田中の同世代投手が躍進している。

 もちろんこれは時期尚早だし、強敵も多い。休養が長引いた田中将大はもはやむずかしいだろうが、大本命「キング」ことフェリックス・ヘルナンデスの剛腕は今季も健在だ。

 ヘルナンデスの場合は、防御率(1.97)とWHIP(0.88)がともにずば抜けている。簡単にいうと、打者を塁に出さず、点を与えない。しかも彼の場合、先発すると確実に7回以上を投げる。「先発して6回以上、3自責点以内」の投球を「クォリティ・スタート」と呼ぶのは周知の事実だが、ヘルナンデスの場合は「7回以上、2自責点以内」が常態と化している。

 アメリカのメディアは、半ば冗談めかして、これを「ラグジュアリー・スタート」と呼ぶ。ヘルナンデスは8月5日までに、このラグジュアリー・スタートを19回も達成している(先発は24試合)。対するクルーバーは13回だから、この分野ではヘルナンデスが圧倒的に優勢だ。そもそも、同じ28歳とはいえ、ヘルナンデスは'05年からメジャーで投げている10年選手だ。一方のクルーバーは、実質'12年からの3年目。年俸は2285万ドル対51万ドルと大違いだし、これまでに稼いだ年俸総額となると、8700万ドル対100万ドルというべらぼうな差がついている。

 それでもクルーバーのような苦労人の躍進は、やはり野球を楽しくしてくれる。今季はもうひとり、26歳のギャレット・リチャーズ(エンジェルス)も、動きの読みづらい速球と高速スライダーを武器に、飛躍的な成長を見せている。彼らはそろって、ダルビッシュ有や田中将大の同世代だ。ナ・リーグのクレイトン・カーショーやジョニー・クエトも含めて、この世代の投手たちは当分の間、球界を席巻するのではないか。

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