ブラジルW杯通信BACK NUMBER
スペインを破ったオランダ、3つの策。
リスク覚悟の「数的同数」という戦術。
posted2014/06/18 16:30
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph by
Getty Images
良い意味で裏切られた。オランダである。大会初戦で連覇を狙うスペインを5-1と鮮やかに攻略した一戦はワールドカップ序盤のハイライトだろうか。
たとえ相手が前回王者であっても真っ向勝負を挑むのがオランダの流儀――そう思っていた。ところが、軍師ルイス・ファンハールは「勝つための策」をじっくり練ってきた。それも、実に興味深い戦法を。そのキーワードは次の3つになる。
【1】コンパクト 【2】ハイライン 【3】マンマーク
スペイン攻略の肝となった守備戦術だ。オランダは最終ラインを大胆に押し上げ【2】、最前線までの距離をぐっと詰めるコンパクトな陣形【1】をキープした。まあ、守備側にとって相手の選手から時間とスペースを奪うのは必須だが、ラインを高く保つことにはリスクがある。たった一本のパスで背後に広がるスペースを突かれかねない。コートジボワール戦で日本の最終ラインがずるずると後退してしまったのも、快足アタッカーに裏へ走られることを恐れたからだ。
「場所」ではなく「人」を捕まえるマンマーク。
ところが、スペイン相手にはメリットがある。じっくりパスを交換しながらポゼッションを高めていくスペインの場合、裏のスペースへ簡単に蹴ってくるケースが少ないからだ。むしろ、リスクを恐れてラインを下げれば、スペインの思うツボ。せっかく球を奪っても、相手ゴールまでの距離が長くなるため、攻撃はやりにくい。敵陣深く押し込めば、相手のカウンターを回避しやすくなるスペインにとってはむしろ、好都合である。だからこそ、オランダはプッシュアップを試みたわけだ。
そして、最大のポイントがマンマーク【3】である。各選手に担当区域を割り当てるゾーンの守備戦法(守備ブロック)でスペインのパスワークを防ぐのは簡単ではない。スペインの選手はゾーンの繋ぎ目に潜り込み、楽々とパスを交換してしまうからだ。スペインは「ブロック崩し」の専門家である。そこで、ファンハールは「場所」ではなく「人」を捕まえるマンマーキングを選んだ。