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ブラジルW杯は“10番”復権の大会に?
ヤヤ・トゥーレが示した新スタイル。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/06/18 10:30
日本戦でもドリブル、ボールキープなどでワールドクラスの能力を見せ付けたヤヤ・トゥーレ。華麗だが華奢な10番ではなく、まさに現代的な新10番の代表的存在だ。
トップ下でポストポレー、というヤヤ・トゥーレの希少性。
だが10番の新たなスタイルを提示する例は、もっと身近なところにもあった。日本が対戦したコートジボワールの選手、マンチェスター・シティのヤヤ・トゥーレだ。
トゥーレは昨シーズン、プレミアの得点王争いに名を連ねた事で一気に注目を浴びた。日本戦で披露した視野の広さやボールタッチの柔らかさ、体のサイズを感じさせない俊敏さなどに、刮目された方も多いだろう。
しかし彼はもう一つの武器を持っている。トップ下において、ポストプレーからのチャンスメイクをするという独特なプレースタイルだ。
プレミアの試合などでゲームのテンポが上がり、かつ激しいプレッシャーにさらされると、トゥーレはある珍しいオプションを駆使し始める。4-2-3-1のトップ下に入り、後ろ向きにボールを受け、体躯を活かしてボールをキープしながら、チャンスメイクをするのである。
FWにボールを預けて時間を稼がせ、そこから局面を打開していくポストプレーの発想は、比較的よく知られている。だがトゥーレは同じことをトップ下でやってのける。結果、シティの前線では彼を起点に、トライアングル(攻撃のためのパスコース)がいくつも描かれる。シティの前監督であるマンチーニは、慎重な戦い方を好んだだけに、この方式を完全にオプションの一つに据えていた。
2010年に殴り書きした「画期的!」の文字。
加えてトゥーレはパスやシュート、ドリブルも器用にこなすため、DFにとって実に厄介な相手となる。ポストプレーを防ぐために体を寄せれば、裏をとってパスを出される。かといってパスコースを切るために距離を保っていると、するするとドリブルで抜け出されてシュートを打たれてしまう。
このようなチャンスメイクの方法論は、古典的な10番はもとより、新世代の10番と比べても異彩を放つ。ちなみにトゥーレは独特なプレースタイルを、シティに移籍した1シーズン目の早い段階から実践していた。
現地取材に赴いた際、知人のイングランド人記者と、彼の話題で盛り上がった覚えがある。
「面白いよね。あのスタイルは、ものすごく画期的だぜ!」