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「自分らしさ」を裏切る勇気と自信。
横山典弘、ダービーを制した“奇襲”。
posted2014/06/04 10:30
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
Kyodo News
「自分のプレーがしたい」
「結果は考えず、自分のプレーに徹したい」
よくそんな言葉を耳にする。しかし、自分らしいプレースタイルが出せれば、結果はどうでもいいというものでもないだろう。それに、「自分らしさ」は本人が一番わかっているとも限らない。他人が理解している場合もあるし、本人が可能性に目をつぶっているケースもあるかもしれない。いずれにしても、「自分らしく戦う」ことは、簡単そうで実は意外に複雑なのだ。
今年のダービーで3番人気に推されたワンアンドオンリーは追い込み馬である。3月の弥生賞でも、クラシック初戦の皐月賞でも後方のポジションから直線で豪快な伸び脚を見せて上位に入った。「後方一気」がこの馬の「らしさ」であり、直線の長い東京コースで行なわれるダービーなら、その追い込みの脚が存分に威力を発揮するだろうと見て、本命に支持する評論家も少なくなかった。
「らしくない」位置へつけたワンアンドオンリー。
ところが、ダービーで見せたワンアンドオンリーのレースぶりはまったくこの馬「らしくない」ものだった。
2番枠から好スタートを切ったワンアンドオンリーと横山典弘は素早く5番手のポジションに付けた。いったん後方に下げて、追い込みの脚を温存しながら進み、直線では外に持ち出して追い込んでくる。あとは前を捕まえられるかどうかだ。この馬の馬券を買った人も買わなかった人も大方はそんなレースを思い描いていただろう。ところが横山とワンアンドオンリーは全く違うレース運びを選択したのだ。
「これじゃあ、なし崩しに脚を使い、最後は追い込みきれないんじゃないか」
馬券を買った人の半分ぐらいは1コーナーのポジションを見て、舌打ちしたり、頭を抱えたりしたのではないだろうか。