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「自分らしさ」を裏切る勇気と自信。
横山典弘、ダービーを制した“奇襲”。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byKyodo News

posted2014/06/04 10:30

「自分らしさ」を裏切る勇気と自信。横山典弘、ダービーを制した“奇襲”。<Number Web> photograph by Kyodo News

残り400mの叩き合いを制し、3/4馬身差で勝利したワンアンドオンリー。騎手の横山典弘は2009年のロジユニヴァースに続き2度目のダービー制覇となった。

プラン変更の陰にあった2つの理由。

 だが、この、らしくないレース運びは横山が最初から決めていた作戦だった。

「間違いなくスローペースになる。スタートを決めれば逃げてもいいと思っていた」

 レースのあと、横山はそう語っていた。好スタートからの5番手はプラン通りだったのだ。なぜ追い込みが武器であるワンアンドオンリーにこんな戦術を取らせたか。

 理由はふたつ。ひとつはウインフルブルームの出走取り消しである。皐月賞でもハイペースで飛ばして3着に粘ったウインフルブルームは、ダービーでも逃げ宣言をしてレースをけん引すると思われていた。この馬はうまくスローで逃げるのではなく、肉を切らせて骨を断つ速いペースの逃げが持ち味である。その馬が出なくなった。これでスローペースは必至。後方でのんびり構え、直線にかけるレースでは間に合わない。

 もうひとつの理由は馬場。この週の東京芝コースは内ラチから数頭分を通った馬がよく粘っていた。反対に外から追い込む馬はよほど前が崩れる流れにならないと追い込みきれない。内寄りを回り早めに抜け出さないと勝機はない。このふたつの理由で、ワンアンドオンリーと横山は「らしさ」を捨てた。

外枠から出たことで消耗したイスラボニータ。

 作戦は見事に功を奏した。レースのペースは大きく離して自滅覚悟で逃げたエキマエを別にすれば、平均に近いものだったが、それでも後方よりは好位集団が有利なことに変わりはない。そのなかで、ワンアンドオンリーは流れに乗って行くでも下がるでもなく、口笛を吹くような心地よさで進んでいく。

 直線を向いたときは5番手。ここ2戦のワンアンドオンリーだったら馬群の外に持ち出して追い込んでくるところだったが、この日は真ん中よりやや内側のコースをキープして直線の坂に向かう。坂を上がって1番人気のイスラボニータが抜け出したのを見計らい、残り300mで並びかけた。

 イスラボニータ+蛯名正義とワンアンドオンリー+横山の激しい叩きあいになったが、外枠から出て、行きたがる場面を何度か見せていたイスラボニータには、思い通りの「らしくない」レース運びを見せたワンアンドオンリーを退ける力はなかった。

【次ページ】 横山典弘、会心の部類に入るGI勝利。

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