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イビチャ・オシム、日本への提言。
「メディアも選手も監督も準備せよ」
text by
イビチャ・オシムIvica Osim
photograph byTakuya Sugiyama
posted2014/05/12 16:30
オシムは内田について「なるようになるだろう」と語っていたが……。5月12日、自身2度目のW杯代表メンバー入りを決めた。
フランスの勝利はポジティブだ。
――ちなみにこれは、フランスの突破が決まった翌日のレキップ紙ですが、一面のタイトルは「レスペクト」です。
オシム 誰へのレスペクトだ?
夫人 彼らは突破するに値しました。
オシム 自分たちへのレスペクトか?
――今回は正々堂々と戦って勝ちましたから。4年前はアンリのハンドで決着がついて、後味はとても悪かったですから。
オシム ああ、本当にうまくやった。たしかにそれに比べたら今回はずっとポジティブだ。
夫人 ハンドだけでなくオフサイドでもありました。
オシム フランス人がポジティブなのは、彼らがナショナリストであり愛国主義者であるからだ。そうであるから彼らは敢えてアラブ系とアフリカ系を前面に出している。ヨーロッパの他の国も、フランス人がナショナリストであることをよくわかっている。国民戦線などの右派勢力が、今日ではとても危険な存在になっている。ヨーロッパの他の国々はそうしたフランスの傾向をとても警戒している。それはここボスニアでもそうだ。
なにかいいことをしたら、それは全員で分かち合うべきで、これまではフランスも多かれ少なかれそうしてきた。しかし今、アラブ系やアフリカ系と分かち合っているかといえば……、決してそうではないだろう。サッカーに関しては、今やほとんどの選手がアラブ系かアフリカ系だ。
――若い世代は特にそうです。
オシム フランスはすでにチームができあがった。とても重要なことだ。それが最初のページであり、そこに記載されているのは外国出身の選手たちだ。意図的な政策の結果としてそうなった。それはよくあることで、たとえばひとりの攻撃的なアラブ系選手が……。
夫人 かつてのジダンのような選手ですね。
オシム 今はもうジダンはいないから、別の選手を探さねばならない。
メッシはちょっと疲れている。
――リベリーはジダンの域にまでは達していないですか?
オシム 違いはまず体格にある。ジダンの方がリベリーよりずっと重い。それがクラスの違いにも結びついている。たしかにリベリーは興味深い選手だ。とてもストレートで勇敢だし、予測のつかないプレーもする。ジダンもすべての資質を備えていたが、方向・意味合いが全く違っていた。スタイルも別だった。それがふたりの違いで、ジダンは本物の天才だった。
ジダンのやっていたことは……、今日のリベリーがやっているのは相手が対応しにくいことで、彼のドリブルはとても威力がある。もうひとりのジダンと言えないこともない。ふたりが融合したら、恐らく世界サッカー史上最高の選手になる。あらゆる資質を備えた選手になるわけだから。あるいはメッシとの融合だ。メッシはリベリー以上の能力を備え、そのうえジダンとも共通の資質がある。パスや目の付け所……。
――視野の広さや創造力ですね。
オシム 得点も決める。それも予測が難しいゴールだ。いずれにせよ小柄なバルセロナの選手たちが、相変わらずヨーロッパを支配している。すでに何年も前から同じスタイルでやっているにもかかわらず、フィジカル面でほとんど疲弊していないのは驚きだ。怪我も少ない。彼らが重傷を負って長期離脱したら大きな損害だが、幸いそういう事態には陥っていない。
ただ、彼らを守る術がないのもまた事実だ。そんな法律ができることはあり得ないが、もしもメッシを保護する法案が提出されたら、私は一番に賛成の票を入れる。というのも彼こそがサッカーの最も美しいプレーを体現しているからだ。
――しかし最近のメッシは怪我がちでちょっと心配ではありませんか?
オシム たしかに疲労は感じられる。浮かぶアイディアや走りを見ているとちょっと疲れている感じで、若かった頃の彼ではない。かつてはもっと生き生きとして今よりも躍動感に溢れていた。今はそこまで新鮮なフィジカルはない。もちろんそのアイディアや加速化の動きは彼らしさを保っていて、他から抜きんでてはいるが。彼が回復するのを辛抱強く待つべきだろう。必ず元に戻るだろうから。