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イビチャ・オシム、日本への提言。
「メディアも選手も監督も準備せよ」
text by
イビチャ・オシムIvica Osim
photograph byTakuya Sugiyama
posted2014/05/12 16:30
オシムは内田について「なるようになるだろう」と語っていたが……。5月12日、自身2度目のW杯代表メンバー入りを決めた。
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【3】 〈オシムの眼に映ったベルギーvs.日本〉
「サッカーとは歴史であり、様々な要因がその中に含まれる」
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――プレーオフに関しても話してもらえますか。番狂わせはなく、ポルトガルとフランス、クロアチア。ギリシャまで含め、あとはウルグアイとメキシコ……。いわゆる各大陸におけるサッカー大国がすべて本大会出場を決めました。
オシム こういう状況(市場原理の支配と選手の集中化)は予想しえたし、然るべきものといえる。レアルやバルサの選手たちが、そうした国の代表としてプレーしている。彼らは選手を作り出し、若い才能を南米やいろいろな地域から求めている。その努力が報われたということだ。
そして彼らは自由でなければならない。だからレアルやバルサが魅力的な選手を獲得しようとしたら、世界のどこからでも探し出して金を払う。ではどうやって? 別の選手とのトレードという形になるかもしれない。クラブに所属する選手で、現状に煮詰まって環境を変えたいと望んでいる、もしくはどこでもいいから出たいと考えている選手だ。イブラヒモビッチはバルセロナではインパクトを残しきれなかったが、バルセロナはもしかしたら別の選手を今、探しているかも知れない。バルサの観客にとって魅力的な選手を。スタジアムを満員にするために。そうではないと誰が言える? そうやって金は望ましいかたちで使われる。
そしてサッカーにおいては、金をより多く持っているものが流行を作り出す。彼らはスタジアムをいっぱいにするために、どういう風にプレーすべきかを世間に向けて提示する。得点が多く魅力的なサッカーとはどういうものであるのかを。そしてそれは選手の献身があってはじめて可能なことだ。
選手にしても、そこから利益を得ている。莫大なサラリーを得て、それに見合った貢献をクラブにしようとするが、現実には簡単ではない。ロナウドやメッシが得ているサラリーに見合った働きをするのは、常識的に考えたら不可能だ。どこまでのことをすれば、莫大な額のサラリーと等価のパフォーマンスになるのか。
イブラヒモビッチにしても、20ゴールかそれ以上決められるかも知れないが、観客はそれでも満足しないかも知れない。労働者は週に10ユーロしか稼げないのに対し、他方で5000ユーロ稼ぐものがいる。どちらも極端すぎる。中庸・適正な報酬はどこにあるのかを求めていくべきだ。
プレーオフを勝ち上がった国は、どこもそれまでの努力が報われた。
夫人 ……彼の質問はプレーオフについてだったのに、どうして全然違うことを喋るの。メキシコとかクロアチアとか。
オシム 私が思うにプレーオフを勝ち上がった国は、どこもそれまでの努力が報われたといえる。もちろんサッカーには努力が報われるという保障は存在しないが、報われたのは確かだ。神は決して見放さなかった。
夫人 それは私たちにも言えました。
オシム その通りで、サッカーのロジックがレスペクトされた。優れたチームが残り、そうでないチームが敗れ去った。サッカーにとってそれはいいことだし、(突破を果たした)それぞれの国にとってはさらにいいことだ。サッカーとは歴史であり、政治・経済・社会的なすべての要因がその中に含まれる。選手の行動が与える影響力も大きい。その国のイメージや代表チームのイメージに対して。
この国の多くの人々が本大会へ進むことを望んでいた。クロアチアは以前からワールドカップやEUROの本大会に進んでいるが、彼らはそれに値する。それは国やクラブがサッカーに多大な投資をしているからだ。
ただ、それは決して報われることのない投資でもある。世界チャンピオンのタイトルを、金で買うことなどできないからだ。それを得るためには、優れたサッカーを実践して勝利を得る。他にやり方はない。報われるのは本大会出場まで、参加するに値するかどうかまでだ。そしてプレーオフを勝ち上がったすべての国が、ことプレーの面に関してそれに値すると私は思っている。もしフォルランやカバーニ、スアレスらを擁するウルグアイが、本大会に出場できなかったら大きなダメージだ。彼らが勝ち上がったのはきわめてロジカルだ。
夫人 ロナウドも同じですね(笑)。ロナウドのポルトガルが負けていたら……。
オシム だがそこは選択の問題で、ロナウドなのかイブラヒモビッチなのか。両方は選べない。それが正しいとは言えないが、少なくとも決着はピッチの上でついた。不正やピッチの外の力ではなく、純粋にスポーツの勝負で決着がついた。それがサッカーのポジティブな側面だ。