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耳栓なしで会話ができるほど静かに。
今季のF1はエンジン音も大変貌。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2014/03/23 10:40
野太い低音が響いたオーストラリアGPに、F1界のドン、バーニー・エクレストンは「ノイズが重要」と、かつての大音量を取り戻したい意向を示していた。
乗用車の技術から離れた高回転化に歯止めを。
ではなぜ、このようなレギュレーションが作られたのか?
FIAとのレギュレーション変更に関する技術ミーティングに加わっていたひとりである、ルノースポールF1のテクニカルディレクターを務める徳永直紀は次のように説明する。
「自然吸気エンジンの馬力というのは回転数で決まる割合が大きいので、高回転化の開発をする。だからFIAは回転数の制限で規制をかけましたが、そもそも1万8000回転の技術というのは一般の乗用車の技術からどんどん離れたもので、自動車メーカーにとって魅力のないものになり、どんどんメーカーが去って行きました。そこでFIAとわれわれメーカーは新しい技術を導入しようと、燃料流入量の規制に着手したんです。これなら、環境を配慮した新しい技術競争になるとの考えからです」
これまでの規制はエンジンの回転数に制限が加えられていたが、これはいわば出口側の規制。空気をいかに取り入れるか、その空気にいかに燃料を加えて燃やすかという入口側の規制はほとんどなかった。アクセルを踏んでいない状態でも強制的に燃料を送り続けて出る排気でダウンフォースを生み出す、ブロウディフューザーが考え出されたのも、入口側に規制がなかったからである。
新しい音を否定することは、技術者の知恵を否定すること。
それが2014年からのレギュレーションでは、燃料流入量が100kg/hになったことで、ある一定の回転数を超えたところで、それ以上空気を取り入れても適正な混合比にはならないし、回転数を上げてもパワーが出ない状況となった。そのパワーが上がる上限の回転数とは1万500回転。現在のレギュレーションでは最高回転数もこれまでの1万8000回転から1万5000回転へと3000回転低く設定されたが、実際にはチームは1万5000回転も回す意味はなく、事実上昨年より7500回転低くなったわけである。
そこへエンジンがターボになったこともあいまって、音は大きく変化した。つまり、新しいエンジン音を否定することは、新しいレギュレーションを否定することであり、そのレギュレーションを否定することは、さまざまなアイディアを出した技術者たちの知恵を否定することにほかならない。そしてその知恵には、環境に配慮した新時代の技術をF1という世界最高峰の舞台で試そうという思想が詰まっている。
だから私は、昨年の最終戦ブラジルGPで聞いた音とはまったく違っていても、今年の1.6リッターV6ターボエンジンの音に魅力がないとは感じない。なぜなら、そこからは技術者たちが果てしないチャレンジを繰り広げている音が聞こえてくるからだ。