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フィギュア採点の最難関を徹底解説!
ソチ演技で見る「演技構成点」とは。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2014/03/20 10:30
ソチ五輪男子シングルのフリープログラムの「音楽の解釈」で全選手中1位を獲得した高橋大輔。エキシビションに特別招待されたことの背景には、音楽表現への高い評価があった。
世界観を演出する「振り付け/構成」。
続いて「振り付け/構成」。これは振付師が作ったプログラムへの評価だけではないので、誤解してはいけない。むしろ、どれだけバランス良く空間を使ったかという作品全体のデザイン性を見る。例えば、リンクの片側ばかりに偏っていたり、左右行ったり来たりテニスゲームのようになる構成は、評価が低い。逆に、氷面全体を上手に使いながら、目線や上半身の使い方で上下左右の空間へと演技を広げていくと、デザイン性が高いと考える。
ユリア・リプニツカヤ(ロシア)は、フリーのPCSでは「振り付け/構成」が最も高い9.00だった。プログラムは「シンドラーのリスト」。強制収容所に送られていくユダヤ人の少女という難しい設定ながら、哀愁を感じさせる細やかな振り付けのアイデアがふんだんにちりばめられ、全体を通して一貫した世界観を演出している。さらに遠くを見上げたり足元に目線を落としたりと変化させることで、演技の空間を上手に利用しており、デザイン性の高いプログラムだと評価された。
高橋大輔がフリーで全体1位だった「音楽の解釈」。
最後は「音楽の解釈」。これは動きのタイミング、またラテンやフラメンコなど特徴的な音楽であればそれを反映した動きなど、いわゆる音楽表現だ。
高橋大輔は総合6位ではあったが、フリーでは「音楽解釈」の9.39は全選手のなかで1位。「ビートルズメドレー」に乗せて、スローパートでは見ている人のこころが安らぐような滑りを、盛り上がるパートでは彼の身体が躍動するような滑りをみせた。まさに身体が音楽を奏でているような演技という、素晴らしいものだった。
また、女子3位のカロリナ・コストナー(イタリア)は、「音楽の解釈」で9.61点と、男女全選手のなかで最高点をマークした。彼女は「ボレロ」を演じたが、モーリス・ベジャール版の振り付けをもとに音楽解釈をし、見事にモダンバレエの世界観を氷上に落とし込んだ。その前衛的な挑戦は、他の選手にはない芸術的な手法として高い評価をされた。
いずれにしても5項目すべてに共通するのは「ムーブメント(動作)」であること。身体芸術であるフィギュアスケートは、一瞬一瞬の動きのなかに感動が隠れている。世界選手権では、今季で引退となる選手も多い。ひとときも見逃すことなく、選手が織りなすハーモニーを目に焼き付けて欲しい。