スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ステロイド時代と殿堂入りの資格。
~MLBの新たなレジェンドは誰だ~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/12/21 08:01
“投げる精密機械”と呼ばれ、メジャー通算23年間で355勝を挙げたマダックス。
ステロイド汚染をまぬがれた521本塁打の男。
打者の筆頭候補は、フランク・トーマスだ。トーマスは19年間大リーグで活躍し、打率=3割1厘/出塁率=4割1分9厘/長打率=5割5分5厘の好成績を残した。俗にいう.300/.400/.500の水準だが、通算1万打数以上でこの域に達したのは彼以外に6人しかいない(カッブ、スタン・ミュージアル、トリス・スピーカー、メル・オット、ルース、チッパー・ジョーンズ)。
これだけでも殿堂入りの資格は十分なのだが、もうひとつ強力な理由は、彼が通算で512本塁打を記録しながら、ステロイド汚染をまぬかれていたことだ。
1999年以降に通算500本塁打をマークした選手は、マーク・マグワイア('99年8月)からゲイリー・シェフィールド('09年4月)までちょうど10人を数える。ただしこのなかには、薬物汚染の疑惑をかけられた選手が7人もいる。マグワイア、バリー・ボンズ、サミー・ソーサ、ラファエル・パルメイロ、アレックス・ロドリゲス、マニー・ラミレス、シェフィールドの7名だ。
逆にいうと、シロと断定されたのはケン・グリフィー・ジュニア、トーマス、ジム・トーミの3人しかいない。「自力で」500本塁打に漕ぎつけた選手には、それくらい希少価値がある。現役時代は、もろくて淡白な巨漢という印象がなくもなかったトーマスだが、すでに入所しているエディ・マレーやジム・ライスよりは上の選手だと思う。
野茂の功績はいずれ再び光が当たる日が来るはず。
穴馬と目されるのは、ジェフ・ケントとマイク・ムッシーナだろう。ケントは40歳まで17年間プレーし、二塁手としては出色の377本塁打を記録した。通算打率は2割9分だが、得点圏での数字(.300/.385/.512)が示すとおり、勝負強さが記憶に残る選手だった。大選手ロジャース・ホーンズビーには及ばないが、ライン・サンドバーグやトニー・ラゼリ(ともに殿堂入り)あたりとは肩を並べてもおかしくないのではないか。
ムッシーナの功績は、あのステロイド時代にア・リーグ東地区で投げ続け、通算270勝の成績を残したことだ。カムデン・ヤーズ、ヤンキー・スタジアム、フェンウェイ・パーク……。彼が投げていた球場はすべて打者に有利だったし、強力なDHもずらりとそろっていた。今回の当選はむずかしいかもしれないが、DH制採用('73年)以降にデビューしたア・リーグの投手で、彼よりも勝利数が多いのはロジャー・クレメンスただひとりだ。この事実はいずれ評価されるだろう。
最後にひとつ。野茂英雄の入所にはしばらく時間がかかると思う。今回、BBWAAの得票が次回以降も審査の対象となる5パーセントを超えるのは無理だろうが、彼の功績はいずれベテランズ委員会の注意を惹くのではないか。ロバート・ホワイティング氏も指摘していることだが、アメリカと日本をつなぐ野球の歴史は、「プレ・ノモ(野茂以前)」と「ポスト・ノモ(野茂以後)」に二分される。野茂が道を切り開かなかったら、アジア出身の大リーガーはここまで増えていなかった。その歴史的価値を、われわれは忘れずにいたい。