Jをめぐる冒険BACK NUMBER
プレーオフ届かずも、包まれた拍手。
松本山雅が熱烈に愛される理由。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/11/28 10:30
1万6885人が詰め掛けたアルウィンのファンに拍手で送られる松本山雅イレブン。
アルウィンの“緑の壁”は、松本山雅を後押しした。
90分を通して見れば、多くのチャンスを作ったのも、ボールを支配していたのも、17位の愛媛のほうだった。
だが後半、愛媛はチャンスをゴールに結び付けられず、松本山雅は押し込まれながらもカウンターを見舞って、反撃の手を緩めなかった。
そこには、愛媛にとっては判断や精度を惑わすプレッシャーとしての、松本山雅にとっては文字どおり「後ろから後押しする」存在としての、ゴール裏を埋めた“緑の壁”の存在があったように感じられた。
球技専用スタジアムのメリットを、松本山雅は最大限に享受しているようだった。
レフェリーまで影響を受けたかどうかは定かでないが、29分に、ペナルティエリア内で船山貴之がDFに後ろから引っ張られたシーンにPKの判定が下り、船山が自らこれを決めた。
このゴールで松本山雅は一時的に5位へとランクアップ。だが、後半に生まれた徳島のゴールによって順位は6位に後退し、最後の最後、千葉のゴールでプレーオフ出場圏外に弾き出されてしまった。
攻撃に関するデータが軒並み下位という事実。
反町監督によれば「今季の42試合中、ポゼッション率で勝ったのは2試合しかない」そうで、「うちには2、3人抜ける選手もいなければ、ピッチを俯瞰して見られる選手もいない。個の能力ではJ2でも下のほうだぞ」とまで言う。
それはデータも示している。Jリーグ公認データ『StatsStadium』によると、パス本数、ボール支配率、攻撃回数、ドリブル回数といった攻撃に関する項目が軒並み22チーム中20位以下なのだ。
では、どうしているのか――。
判断力と走力をもって、技術面でのハンデを補う。少しでも早く攻守を切り替え、相手に走り勝ってチャンスを広げる。
ボールを奪ったら果敢に前線に飛び出していく。ボールを奪われたら全力で戻ればいい。走ることをベースにリスクを冒す松本山雅に、指揮官が影響を受けたというオシムイズムも嗅ぎ取れた。