REVERSE ANGLEBACK NUMBER
ジェンティルJC勝利も、物寂しく――。
凱旋門が遠ざかる、日本競馬の現状。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKYODO
posted2013/11/27 10:30
1番人気のジェンティルドンナが史上初となるジャパンカップ連覇を達成。2着は7番人気のデニムアンドルビー、3着は11番人気のトーセンジョーダンが入り、ワイドの(5)-(9)20770円はジャパンカップ史上最高払戻額となった。
今年のジャパンカップで3番人気に推されたエイシンフラッシュの馬券を買った人は1コーナーを回るとき、思わず目を背けたくなったのではないか。なにしろ先頭でコーナーを回ったのがほかならぬエイシンフラッシュだったのだから。
エイシンフラッシュは3年前のダービーと去年の天皇賞・秋のふたつのGIを勝っている。いずれも東京コースのGIだ。だが、そのいずれも逃げての勝利ではなかった。それどころかデビューからジャパンカップの前の天皇賞・秋までの26戦、先頭で1コーナーを回ったことは一度もない。
この馬の武器は瞬発力である。ダービーでは最後の3ハロン32秒7という極限の上がりの脚を繰り出してローズキングダムを抑えた。去年の天皇賞でもハイペースにもかかわらず、33秒1の最速上がりタイムを叩きだして勝った。
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そうした脚を繰り出すには、道中で脚をためる、少し余裕を持って走ることが求められる。後方から一気にまとめて先行した馬を抜き去るほどの豪脚、ディープインパクトみたいな脚はないが、うまくインコースに潜り込んで直線を向き、混戦を瞬発力で抜け出すというのが勝ちパターンなのだ。
その馬がいきなり飛び出し、1コーナーを先頭で回ってレースを引っ張りはじめた。場内がざわついたのは当然だろう。
逃げ馬不在、大好物のダンゴレースのはずが……。
今年のジャパンカップは確たる逃げ馬が出走しておらず、レース展開を読むのがむずかしかった。先行した経験のあるヴィルシーナが1番枠に入ったので、包まれるのを嫌って先頭に立つのではという声が多かったが、そのヴィルシーナにしても逃げ馬とはいえず、仮に逃げてもスローペースは確実に思われた。
何かほかの馬を先にやり、自分は2、3番手で息を潜めて直線を向く。馬群は一団で直線へ。そのダンゴレースこそがエイシンフラッシュの大好物だ。混戦では大きな刀よりも鋭い切れ味のカミソリのほうが効果を発揮する。カミソリで周囲を切り裂いてゴールへというプランは、おそらく藤原英昭調教師や騎手のミルコ・デムーロもはっきり持っていたはずだ。