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前人未到のGI通算100勝に思う、
武豊と同時代に競馬を見る幸せ。 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

PROFILE

photograph byYuji Takahashi

posted2013/11/26 12:45

前人未到のGI通算100勝に思う、武豊と同時代に競馬を見る幸せ。<Number Web> photograph by Yuji Takahashi

武豊と藤原英昭調教師。2010年に武が落馬負傷した際に乗っていたザタイキは藤原師の管理馬だった。その年のダービーをエイシンフラッシュで制した藤原師は「武豊のいるダービーで勝ちたい」と繰り返していた。

 彼がいる時代に競馬を見ることができる私たちは、間違いなく幸せである――。

 2013年11月17日、武豊がトーセンラー(牡5歳、父ディープインパクト、栗東・藤原英昭厩舎)でマイルチャンピオンシップを制し、前人未到のGI通算100勝という大記録を達成した。

 デビュー2年目、1988年の菊花賞で初GI制覇を遂げてから25年。100勝の内訳は、JRA68勝、地方25勝、そして海外で7勝。2位の岡部幸雄が32勝、安藤勝己が29勝であるから、武が日本の競馬史においていかに突出した存在であるかがよくわかる。

「武君や岡部君は、馬群のなかでもどこにいるかすぐわかるでしょう。それは、彼らの乗る馬のフォームが違うからなんです」

 そう話したのは、「ミスター競馬」と呼ばれた野平祐二(故人)である。

 ここ数年は、外国人騎手や地方競馬出身騎手の派手なアクションが注目を集めているが、鞍上(=騎手)よりも鞍下(=馬)の動きで技術と個性を見せ、結果を出す――それこそ武の真骨頂なのだ。

馬を動かす技術の象徴、抜群のスタート。

 ということで、マイルチャンピオンシップの直線でのトーセンラーのフォームを思い出してほしい。武が「ディープインパクトのような走りをさせたかった」と望んだとおり、ディープ同様、それほど首を使わず、大きなストライドでピョーンと飛び、まるでネコ科の動物のようなやわらかさを感じさせた。実際には馬の背骨というのは動かないらしいのだが、にもかかわらず、他馬よりずっと大きく背中がしなっているように見えた。

 レースを作品とするなら、これは武の相当な自信作に違いない。

「小さな扶助(=操作)で、大きく馬を動かす」というのは岡部の言葉で、彼が理想とした騎乗でもあるのだが、武は、その奥義をきわめ、世界的名手となった。

 彼の優れた技術が、もっともわかりやすい形で表れているのは「スタートの速さ」だ。ゲートからの2、3完歩でポーンと他馬より前に出てしまうので、他馬が脚を使っている間に、そのまま先行するなり、下げるなりして、騎乗馬に負担をかけずにポジションを固定してしまう。そこで余計なエネルギーを使っていないから、マイルチャンピオンシップのトーセンラーのように、彼の騎乗馬は最後の直線でとてつもない瞬発力を発揮するのだ。

【次ページ】 今の騎乗にある、200勝時代以上の「凄み」。

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