スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
最優秀監督と新潮流。
~MLB今季最高の指揮官に思う~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byMLB Photos via Getty Images
posted2013/11/16 08:01
2008年オールスター。ロッキーズ監督だったハードル(左)とレッドソックス監督だったフランコーナの2ショット。2007年のワールドシリーズはフランコ―ナが制した。
弱い球団を引き上げた手腕が賞賛された。
フランコーナも、インディアンスの勝ち星を昨年の68勝から92勝に引き上げた功績が大きい。しかもこの球団は、2012年だけでなく、過去4年間で3度も90敗以上を繰り返してきた。つまり、慢性の弱体球団。ニック・スウィッシャーやマイケル・ボーンの補強があったとはいえ(彼らは意外に働かなかった)、ここはやはりフランコーナの手腕が讃えられるべきだろう。
なにしろこのチームには、規定打席数以上の3割打者、本塁打25本以上の選手、85打点以上の選手がひとりもいないのだ。投手陣に眼を転じても、200回以上投げた投手、15勝以上をあげた投手、防御率が3点を切った先発投手は皆無。しかも年俸総額は8000万ドルだから、同地区首位のタイガースより6800万ドルも少ない。
このあたりの事情が、投票結果に反映されたようだ。金満レッドソックスと中流以下のインディアンス。陣容を見れば、インディアンスの手駒の薄さは一目瞭然だ。よくぞここまで、という視線が集まっても不思議ではない。
マイナーを経験せず、大リーグ監督として成功する新潮流。
ナ・リーグのハードルが地滑り的な勝利を収めた理由も、このあたりにある。21年ぶりの勝ち越し、21年ぶりのポストシーズン進出は実にあっぱれだが、資金力や陣容を見ると、パイレーツにはやはり同情票が集まる。
マッティングリーの票が伸びなかったのは、もともと強力な陣容の金満ドジャースが故障者続出で低迷し、救世主ヤシエル・プイグの出現を契機に本来の力を発揮したという印象が強いためかもしれない。それでも、6月21日まで30勝42敗だったチームが、6月22日から9月3日の間に53勝13敗という快進撃を示したのは、やはり尋常な業ではない。
そのあたりもふくめて、私はファレルやマッティングリーの受賞が実現しなかったことを、ちょっと残念に思っている。両者の共通点は、マイナーリーグなどでの監督を経験せぬまま大リーグの監督として成功している点だ。つまり、一種の新潮流。
カーク・ギブソン(ダイヤモンドバックス)、ロビン・ヴェンチュラ(ホワイトソックス)、マイク・マシーニー(カーディナルス)らも同様だが、来季から新監督に就任するブラッド・オースマス(タイガース)やウォルト・ワイス(ロッキーズ)など、この新潮流を担う若手監督はけっして少なくない。彼らの動向は、注意して見守っていきたい。