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『42~世界を変えた男~』に思う。
貪欲な人材発掘こそ、MLBの方法論。 

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阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byAFLO/AP

posted2013/11/13 10:30

『42~世界を変えた男~』に思う。貪欲な人材発掘こそ、MLBの方法論。<Number Web> photograph by AFLO/AP

ジャッキー・ロビンソンは1947年にメジャーデビューし、1949年は首位打者と盗塁王を獲得してMVPに選出され、オールスターにも出場を果たした。現在では、メジャーリーガーのおよそ8割を白人以外が占めている。

 ここ数年は野球シーズンが大詰めを迎えるころに野球映画が公開される。一昨年は「マネーボール」、去年はクリント・イーストウッドの「人生の特等席」が公開された。この2本はどちらもバックステージものだったが、今年はど真ん中の直球が投げ込まれた。

「42~世界を変えた男~」はジャッキー・ロビンソンの伝記映画だ。黒人初のメジャーリーガーになったロビンソンのことはいまさら説明するまでもないだろう。映画はロビンソンがマイナーからメジャーに昇格して新人王になる1年に絞って描いている。激しい人種差別とそれに耐えてプレーで勇敢さを示したロビンソンについては多くの資料があり、自分が読んだ範囲で考えても、映画はほぼ実話、事実を忠実に描いている。

 アメリカの野球映画はプレー場面がきちんと描かれているのが面白いが、この映画でもロビンソンが出塁してリードするとき、指を小刻みに動かすしぐさは伝えられるとおりの彼のクセだし、走塁の場面も迫力があった。

 メジャーの歴史に関心のある人なら、ブルックリン時代のドジャースがホームスタジアムにしていたエベッツフィールドの外観がそっくりに再現されていて驚くだろう。

 移動のバスやユニフォームの形、ロッカールームやダグアウトの様子などは確認したわけではないが、おそらく当時の資料に基づいてほぼその通りに描かれているのではないか。このあたりのディテールの面白さはなかなか日本では真似ができない。

メジャーの根っこにはエンドレスの拡張主義がある。

 ただ、ロビンソンは人種差別に風穴を開けた英雄だ。特にアフリカ系の人からすれば、マーティン・ルーサー・キングと並び称されるような聖人に近い人なので、当然本人とその人の側に立つものは善として描かれる。そして差別する側は悪。実話だし、その構図に間違いはないわけだが、映画として見ると、善悪の構図が単純すぎて平板な感じは否めない。

 むしろ面白かったのは、ロビンソンのメジャー昇格から見てとれるメジャーリーグの根っこにある姿勢だ。それはエンドレスの拡張主義とでもいえるものである。

 たとえば、ハリソン・フォードがそっくりメイクで演じるドジャースの会長兼GM、ブランチ・リッキーは、先進的な考えの持ち主だったことは確かだが、公民権運動の闘士でも人権活動家でもない。ロビンソンの獲得は黒人選手という未開拓の大陸への突破口であり、観客動員への期待という興行的な要請でもあった。

【次ページ】 一貫して優れた選手を求め「外」に目を向けてきた。

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