F1ピットストップBACK NUMBER
タイヤの性能を、限界まで引き出す。
鈴鹿を制したベッテルの隠れた力。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAP/AFLO
posted2013/10/20 08:01
日本GPで優勝しランキング2位のアロンソに90ポイント差としたベッテル。次戦インドGPで5位以内に入ればベッテルのタイトルが確定する。
逆転を狙い、急遽戦略を変更したレッドブル勢。
最初のピットストップでも上位3台の順位に変化は起きなかった。こうなると、2番手以下のレッドブルがグロージャンを逆転するためには、グロージャンと異なる戦略を採らなければならない。しかも、リスクヘッジの観点から2番手のウェバーと3番手のベッテルで戦略を分けなければならない。果たして、レッドブルは2番手を走行していたウェバーを予定より早い25周目にピットインさせ、3ストップに変更する。
53周で争われる日本GPは、金曜日の走行データを見る限り、2ストップのほうが3ストップよりも、シミュレーション上は速かった。しかし、鈴鹿はタイヤに対する負荷が大きいため、もし金曜日よりもタイヤのパフォーマンスダウンが大きくなるようなことがあれば、3ストップが2ストップを逆転する可能性もある。
しかし、ロングランに定評があるロータスE21を駆るグロージャンは、ウェバーがピットインした後も、安定した走行を続けていた。逆に2度目のピットストップ後、予想していたよりもウェバーのタイムが上昇していないのを見て、小松は「敵はベッテル」一本に絞った。
ベッテルのスパートに対して小松礼雄がとった作戦。
案の定、ウェバーがピットインして前が空いたベッテルは、グロージャンとの差を徐々に詰めてきた。ウェバーが2度目のピットインをした25周目の時点で、グロージャンとベッテルとのタイム差は3.4秒。それが3周後の28周目には1.3秒にまで縮まる。タイヤの性能劣化が激しい現在のF1では、先にピットインしてフレッシュなタイヤに交換したほうが相対的に速くなる。もし、28周目に1.3秒差に迫ったベッテルに、翌29周目に先にピットインされれば、逆転されてしまう。
「予定より2周早かったが、残り24周なら、ギリギリ走り切れる」と踏んだ小松は、29周目にグロージャンをピットに呼ぶ。そして、ハードのニュータイヤを履かせてコースに送り出す。一方、コースにとどまっているベッテルのタイヤは16周以上走行したハードタイヤ。先にピットインしたグロージャンがレースを制するのは、自明の理となるはずだった。