F1ピットストップBACK NUMBER
タイヤの性能を、限界まで引き出す。
鈴鹿を制したベッテルの隠れた力。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAP/AFLO
posted2013/10/20 08:01
日本GPで優勝しランキング2位のアロンソに90ポイント差としたベッテル。次戦インドGPで5位以内に入ればベッテルのタイトルが確定する。
「ベッテルは本当にすごい」
これは先日行なわれた日本GPで、セバスチャン・ベッテルと優勝を争ったロマン・グロージャンの担当レースエンジニアである小松礼雄の言葉である。小松はF1のエンジニアを目指すため、高校卒業と同時に渡英し、イギリスの名門大学をトップクラスで卒業して、スカラシップ制度を受けて大学院へ進んだ実績を持つ。その言葉に偽りはなく、常に本質を見抜く力がある。その小松をして、「すごい」と言わしめたのである。
今年の日本GPが行なわれるまで、小松がこれまでグロージャンとともに3位以上を獲得したレースは、6回あった。しかし、いずれも真剣に優勝を争うという状況までには至っていなかった。グロージャンが勝者にもっとも近いタイム差でフィニッシュしたのは、2位となった2012年のカナダGPでの2.5秒差だが、このときも勝者とバトルするまでには至っていない。
それが今回の日本GPではトップとの最終的なタイム差こそ9.9秒あったが、1周目からトップに立ち、53周のうち実に26周もラップリーダーとしてレースを引っ張ったのである。さらにいえば53周のうち29周もの間、勝者となったベッテルを抑えていた。優勝こそならなかったが、「もっとも優勝に近い走りだった」と小松がグロージャンを讃えた理由も、そこにある。
グロージャンがトップを守った第1スティント。
その小松が、初めてベッテルと真剣勝負を挑んで肌で感じたのが、冒頭の「ベッテルのすごさ」である。小松がベッテルを佳良だったと指摘するのは、1回目のピットストップから2回目のピットストップまでの23周の走りである。
今回、日本GPに持ち込まれたピレリのタイヤは、ミディアムとハード。金曜日のデータから多くのチームが、レースではミディアム+ハード+ハードの2ストップ作戦を予定。実際、スタートで先頭に出たグロージャンが12周目に、2番手のマーク・ウェバーはそれより1周早い11周目に、そして3番手を追走するベッテルも14周目に、それぞれ1回目のピットストップを行い、予想されていたようにミディアムからハードへタイヤを交換して、第2スティントに入っていく。