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弾むように歩き、勝った奇跡の名馬。
トウカイテイオー、天に召される。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byTomohiko Hayashi
posted2013/09/07 08:01
最後のレースとなった1993年有馬記念では、8番人気ながら優勝。翌年10月の引退式当日、メインレースに勝ったのは、皐月賞で2着に退けたシャコーグレイドだった。
数奇な運命をたどった一頭の名牝の血。
トウカイテイオーの血には、競馬史のなかでも数奇な運命をたどったことで知られる一頭の名牝の血が含まれている。
1937年に牝馬として初めてダービーを勝ったヒサトモである。
ヒサトモは古馬になってから天皇賞の前身の帝室御賞典などを勝ったのち、繁殖牝馬となった。しかし、戦後の馬不足の時代、15歳になってから地方競馬で現役に復帰させられ、浦和競馬場で病死した。
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テイオーのオーナーの内村正則は、ヒサトモの曾孫にあたるトウカイクインを購入したのを機に、消滅しかけていたヒサトモの血を持った馬を次々と購入するなど、この母系を大切にした。
トウカイクインは、テイオーの曾祖母である。ということは、ヒサトモは、テイオーの6代母(母を1代、祖母を2代と数える)なのである。
テイオーというと、どうしてもシンボリルドルフとの父仔関係に目が行きがちだが、母系からも「ダービー馬」の濃い血を受け継いでいるのだ。
そうしたつながりを知ったうえで、あらためてヒサトモのモノクロ写真を見て驚いた。大きな流星と目立つ四白(脚の下部が4本とも白くなっていること)、そして写真からはわからないが鹿毛だという。テイオーは三白だが、全身の見た目がソックリなのだ。
半世紀以上の時を経て、テイオーは、6代前の「おばあちゃん」によく似た姿で登場し、その血の強さを見せつけたわけだ。
すべてが派手で、洗練された美しい馬。
トウカイテイオー。勝つときは、他馬陣営に「惜しかった」とさえ思わせることのない圧倒的な強さを誇った。しかし、負けるときは、同じ馬とは思えないほど脆かった。不思議なくらい惜敗はなく、敗れた3戦はすべて惨敗だった。
それでも、この馬の何より素晴らしかったことは、「負けて終わらなかったこと」だ。
惨敗したあと、国際GIになったジャパンカップで「世界の壁」を崩し、1年ぶりの有馬記念で私たちの心を震わせた。
戦績も、走り方も歩き方も、立ち姿までも派手だった。にもかかわらず、洗練された美しさを感じさせたのが「トウカイテイオーらしさ」だった。
近い将来、またその血のドラマに熱くなる日がやって来ると信じたい。