MLB東奔西走BACK NUMBER
薬物撲滅に続きビデオ判定を強化。
MLB改革の全ては、ファンのために。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2013/09/01 08:01
ファン目線でのMLB改革を断固として推しすすめるセリグコミッショナー。日本球界にも強いリーダーシップを欲してしまうのはないものねだりなのだろうか。
今シーズン、MLBはこれまでにない変革を推進しており、日々の取材のなかで並々ならぬ姿勢を感じている。
まずは禁止薬物撲滅の動きだ。
MLBは今シーズンから、米国のスポーツ4大プロリーグの中でも真っ先にHGH(ヒト成長ホルモン)を調べる血液検査を導入した。
これにより、マイアミのアンチエイジング専門クリニック『バイオジェネシス』経由で薬物を不正入手した選手たちに、これまでの出場停止処分規則に縛られない厳正な処分を下したのは周知の通り。
さらにMLBでは、現行制度よりさらに厳しい罰則制度を発表する準備を着々と進めている。
映像技術の進歩で、誤審が白日の下に。
そして今度は来シーズンからのビデオ判定拡大の方針を打ち出した。
現在のビデオ判定はホームランの確認だけに限られているが、これをフェア、ファウルの確認、アウト、セーフの確認にも適用できるようにするというものだ。
現時点ではあくまでその方針が決まっただけで、11月に行なわれるオーナー・ミーティングの投票と選手会および審判組合の承認を得なければ正式決定には至らないが、メディアの報道を見る限り、来シーズンの導入はほぼ確実といったところだ。
米国屈指の一般全国紙『USAトゥデイ』もスポーツ面ではなく、総合面の1面でこの話題を取り上げており、米国民の関心がかなり高いものであることがわかる。
そもそもMLBが本塁打の判定のみに限定してビデオ判定を導入したのは2008年頃。この段階では、バド・セリグ=コミッショナーのみならず、メディアの中にもビデオ判定拡大に否定的な声が少なくなかった。
「野球というスポーツは、審判という人間を介して曖昧な部分も魅力の一部になっている。それを逐一ビデオ判定するのは難しいし、試合時間の延長にも繋がってしまう」
このような主張に代表されるように、審判の判定にある“グレーゾーン”の曖昧さも野球の魅力の一部であったことは間違いない。
また、巷では“審判の質が極端に低下した”とも言われているが、自身が1995年からメジャー取材を続けてきた中では、そうは感じない。
ただ映像技術の飛躍的な進歩により、TVを通して瞬間を切り取る鮮明なリプレイを誰もが目撃出来るようになったのは確かだ。
そしてそれが、審判の誤審として白日の下に晒されるようになったのである。