MLB東奔西走BACK NUMBER
薬物撲滅に続きビデオ判定を強化。
MLB改革の全ては、ファンのために。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2013/09/01 08:01
ファン目線でのMLB改革を断固として推しすすめるセリグコミッショナー。日本球界にも強いリーダーシップを欲してしまうのはないものねだりなのだろうか。
グレーゾーンの消滅を知らしめたある事件。
その典型的な例となったのが、2010年に起きたアルマンド・ガララーガ投手の完全試合をふいにした誤審だった。
9回2死まで完全試合を続け、27人目の打者も一塁ゴロに打ち取った。しかし、一塁カバーに入ったガララーガより、打者の方が先に一塁に到達したとして判定はセーフ。結果、内野安打となり完全試合どころかノーヒットノーランもふいにしてしまった。
試合中、何度も繰り返されたリプレイ映像では、ガララーガの足の方が先にベースを踏んでいることを誰もが確認出来ていた。一塁塁審のジム・ジョイス氏が試合翌日、号泣しながら自分の誤審を認めて謝罪。その姿が、あまりに痛々しかったのを今も鮮明に憶えている。
この時に多くのMLB関係者が、野球からグレーゾーンが消えたことを十分に理解できたはずだ。
しかも、MLBがビデオ判定拡大でモデルケースにしているNFLでは、現行のビデオ判定制度が試合の流れを左右するシステムとして、ファンから強く支持を集めている。
さらにビデオ判定拡大を審議する調査委員会では、拡大によって試合時間が延びるどころか短縮できるという調査結果も出している。これにより、来シーズン以降は、さらに違った次元の野球が楽しめるようになるのは間違いない。
MLBが積極的な改革に乗り出したたった1つの理由。
それにしても、これまでは問題に対しどちらかというと後手後手に回っていたMLBが、なぜここまで積極的に対策を打ち出してきたのだろうか。
答えは至って簡単だ。
セリグ=コミッショナーが自分たちの都合を優先するのではなく、ファン目線で物事を考えようとしているからに他ならない。
「プロスポーツはイメージが重要だ。そのためにも我々がファンから禁止薬物にクリーンなリーグであるというイメージを持たれるようにしていかねばならない」
以前にも紹介したコミッショナーの発言だが、とにかくファンのMLBに対するイメージを一新し、ファンの信頼を獲得することに真剣に取り組もうとしているのは歴然としている。
やはりプロスポーツの根幹にあるのはファンなのだ。今シーズンのMLBの姿勢がそんな単純なことを再認識させてくれた。